豊島逸夫の手帖

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中国「6年で1兆ドル輸入増」の本気度

2018年1月21日

18日日本時間深夜25時前に流れたブルームバーグ電でNYダウは一気に360ドル超瞬間急騰した。

「中国、米国から今後6年で総額1兆ドル超の輸入増を米国へ提示。24年までには対中貿易赤字ゼロへ」との観測記事だ。「1兆ドル」と兆単位で丸めた数字、そして「対中貿易赤字ゼロ」は、そのままトランプ大統領が次期大統領選挙で成果として使えそうな表現だ。早速トランプ大統領は記者団に対して「中国との対話は進展している。」と語った。

17日には「ムニューチン財務長官が、関税取り下げを政権内で議論」とのダウ・ジョーンズ電観測記事が流れ、ダウ平均は200ドル超瞬間急騰したばかりだ。日本電産ショックから日本株を救った要因ともなった。

スクープ合戦の様相だが、結果的に二日間でダウ平均は「米中通商交渉進展期待」により500ドル上昇したことになる。

問題はこの二つの観測記事の真偽性だ。

ありそうな話ではある。

年末年始の株価大変動は米中政権内にも危機感を醸成して「市場に友好的」な言動を誘発したと解釈できる。

ムニューチン財務長官関連の報道も政権内ライバル関係にあるライトハイザー通商代表に対する先制の動きと解釈できる。

とは言え、本当に信用して良いのか。市場は熱烈歓迎しつつも当惑気味だ。機械は瞬間的に買い注文を発動したが、その後、人間のトレードは模様眺めで大きな変動はなかった。

二つの報道に「犬がクンクン嗅ぎまわっているが如し」。

一連の報道の中の表現だが、言いえて妙である。

米中共倒れリスクを回避するために、月末には中国の副首相が訪米する。その時に報道の真偽は明確になりそうだ。

筆者が注目したのは、18日に発表されたミシガン大学消費者信頼感指数の落ち込みだ。1月の速報値だが、前月の98.3から90.7に急落している。政府機関閉鎖で滞りがちな経済指標の中で民間機関発のデータは予定通り発表されるので今や貴重である。「データ次第」のFOMCが政府機関閉鎖の煽りで「データ不足」の中「夜間飛行」を強いられるリスクがある。

消費者信頼感指数急落は株価には本来下げ材料だが「利上げ後退観測の裏付け」とされ、寧ろ上げ要因との解釈が目立った。

米中関係進展情報と言い、経済指標への反応と言い「売られ過ぎの反動」の理由付けとして使われた感も否めない。

一方、上海株は中国政府の形振り構わぬ財政・金融景気刺激策総動員により、米国株より下値は堅そうだ。いずれ中期的には債務膨張・財政悪化が臨界点に達するは必至なれど、市場目線では未だ先の話。「壮大なモラルハザード」の中で執行猶予付きの買いが見込まれる。

そして日本株は、米中通商交渉進展期待と円安の追い風に恵まれ日本電産ショックも回避された。もしあの日、NY株が米中懸念で急落していたら全く違った展開になったかもしれない。

「運も相場のうち」である。

円安については外為市場では株高が円安要因の一つとされ、株式市場では円安が株高要因とされる。鶏が先か卵が先か。いずれにせよ、うまくかみ合って「買いの連鎖」が生じている。

外国人投資家の日本株売り攻勢も小康状態となりそうだ。

今週は日銀金融政策決定会合があり、最近の傾向として欧米投資家がFRB、ECB並みの関心を寄せている。日本国内では「無風」観測が強いが、海外では「次に出口に向かうのは日銀」との認識が先走り、外電観測記事で円がNY市場のアルゴリズム売買により弄ばれるリスクには要注意だ。

企業決算発表については、VIXが17まで低下している地合いの中では、株価大変動時に埋もれてしまったファンダメンタルズの相対的重要性が再び見直されている。

NY金は下落して1280ドル。調整局面だね。まだ一回表も終わっていない。先は長い。今年は相当アップ・ダウンがありそう。


なお今日発売の日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」に「歴史的乱高下が示唆する相場の現実」と題して書いた。

雪模様が続くスキー場でも里雪の日には山は思わぬ快晴のこともある。長年の経験で山雪か里雪か天気図でおおよそ判断できるようになった(笑)。

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2019年