2012年6月8日
期待感(リスク・オン)→ サプライズ(リスク・オン加速)→ 失望(リスク・オン失速)と昨日(7日)は激動の24時間であった。そのミクロ・コスモス(小宇宙)を金市場に見る。
6月7日
日本時間 午前9時
6日のECB理事会を受け、昨日の本欄「マネー滞留に沈むシラカワ効果」に詳述した如く、日米欧中同時金融緩和期待感が市場には漲る。
午前11時
アジア市場では金融株、新興国通貨が買い進まれ、久し振りのリスク・オン・モード。
国際金市場は前日NY引け値1616ドルを上回る1620ドル台後半で推移。
午後5時
欧州市場のアーリー・バード(早起き鳥)たちが参入。
日刊のUBSゴールド・レポートが市場に流れる。
「"All eyes on Bernanke"全ての目は6時間後に控えたバーナンキFRB議長議会証言」との内容が市場のQE3期待感を代弁する。
午後9時
バーナンキ議会証言2時間前に異変は起こった。リーマン危機以来の「中国利下げ」。先週金曜日の中国PMI(製造業購買者景況感指数)悪化後、中国の追加的金融緩和は視野にあったが、銀行準備率引き下げに留まるとの見方が優勢だっただけに、市場にはビッグ・サプライズ。リスクマネーのオン状態は更に刺激され高まる。金価格も1630ドルをつける。バーナンキ議会証言直前に利下げ発表をぶつけてきたタイミングが、市場の雀たちの間で様々な憶測を呼ぶ。前日のECB理事会、そして中国人民銀行の利下げ発表と続くと、いよいよトリはバーナンキもQE3示唆発言か。主要各国中央銀行の共同金融緩和作戦か、と市場の想像力も掻き立てられる。
午後11時
いよいよバーナンキ議会証言開始。市場の目は欧米経済チャンネルの生中継画面に釘付け。米上下両院合同委員会の議員たちが半円形にバーナンキ議長を取り囲み、各自の持ち時間いっぱいに質問を繰り出すこと2時間。(全米放送を意識して、質問というより、こことばかりに演説に走る近い議員も多いが。)「バーナンキさん、夜はよく眠れてますか?」「はい、皆さんのおかげで昼間は十分に忙しいですから」などとジャブの応酬。
見守る市場は今か今かと「QE3」への直接的言及を待つが、お目当ての明確な発言は一向に出ず。「必要とあらば行動をとる準備あり」と、これまでの発言を繰り返すのみ。議員の「誘導尋問」もサラリとかわされる。市場はみるみる焦れてきた。その瞬間に起きた「劇場のシンドローム」。満員の劇場内で観客の誰かが「火事だ!」と叫ぶと、全員が狭い非常口に殺到する現象。「バーナンキ証言に新鮮味なし」との呟きで、市場参加者の売りの火ぶたが切られた。
金価格は、この日の高値1630ドルから、一挙に1600ドルの大台割れ。そこでセル・ストップ(損切りの売り注文)が一斉に発動され、一時は1577ドルまで急落。バーナンキ議会証言を挟んで50ドル以上の下げとなった。
日本時間6月8日午前5時
NY株式市場大引け。金価格はさすがに底値から反発したが、1590ドル止まり。中国市場引け後の中国人民銀行利下げ発表ゆえ、8日の上海市場の反応待ちの姿勢。
激動の24時間が終わり、改めて市場指標を点検すれば、マーケットの不安感を表す「恐怖指数」と言われるVIXは、今週月曜に27台まで急騰していたが、昨日は21台まで急落。趨勢としては警戒感が和らぎ、リスク許容度が高まっている。潮流は、ギリシャ・スペイン不安への「有事政策対応」として、世界的金融緩和競演の様相となりつつあるのだ。
市場の次の関心は、週末に発表される中国消費者物価上昇率などの主要経済指標。昨晩の電撃利下げは、この物価上昇率の更なる鎮静化、そして指標的には経済減速の進行を当局が確認した上で先手を取ったとの見方が上海筋では支配的。なお、現地のアナリストは、利下げそのものより、同時に発表された金利自由化措置(銀行貸出・預金金利の設定幅拡大)のほうを注目している。預金金利が従来より相対的に高めに設定されれば預金者の消費性向は高まり、貸出金利が低目に設定されれば融資も増え企業活動も活性化される、との読みだ。中国トップ交代を控え、新たな指導部が自由化を進める先触れとも見れる。
なお、QE3に関しては、6月19、20日のFOMC(米国連邦公開市場委員会)までお預け。金市場には、バーナンキが切り札は温存、先の楽しみとする希望的観測が依然根強い。
議長の議会証言前に、腹心と言われるイエレン副議長がかなり強い文言で「追加緩和の可能性を示唆」しているので、正副議長のタッグ・マッチとの見立てもある。
さて、今朝の日経朝刊「経済教室」面下に日経CNBC主催プレミアム・セミナーの告知あり。中国出張から帰国の翌日なので、ギリシャレポートに加え、中国経済減速レポートも語ることに。