豊島逸夫の手帖

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QE依存症にFRB新療法

2012年3月8日

昨晩の欧米市場は株も商品もFRB新型QE3検討との新聞報道を囃し上昇した。
その新型量的緩和策とは、一言で言って、「マネー垂れ流し」しない通貨供給策である。専門的には「不胎化政策」と言われる。今回の案では、まず長期債を買い取ることで長期金利の低水準維持を計る。同時に、買い取り代金として市中にばら撒かれたマネーを、FRBが短期で民間から借りて回収しようではないか、というのだ。この方策ならば、長期金利を低めに抑え好転しつつある米国景気を下支えする。同時に、「巨額のマネー垂れ流し」による合併症である長期的インフレ・リスクは回避できる、というわけだ。

これまで、FRBは新型QEとして「ツイスト・オペ」を実行してきた。長期債買い、短期債売りで長期金利は抑え、短期金利上昇は容認する政策である。市場金利誘導方法が長期と短期でねじれているので「ツイスト」と呼ばれた。その新療法も今年6月には終了の予定だ。そこで、更なる新療法を開発したのだろう。
なにやらFRBによる債券市場への介入、金利の恣意的操作の匂いも漂うが、QE市場依存症に陥っている株、商品市場にとっては「おねだり」が通じた感あり。干天の慈雨。よく、市場ではバーナンキ・プットと称される。いよいよとなればヘリコプター・ベン(景況感が悪化すればヘリコプターでドル札をばら撒けばよい、との学者時代の発言にちなんだネーミング)ことバーナンキFRB議長がプット・オプション(株商品の一定価格での売りを保証する金融取引)の如く下値をヘッジしてくれる政策を繰り出すという期待感をベンは裏切らなかったようだ。

更に、昨晩はギリシャ国債民間保有者が債務削減に応じる態度表明の最終期限3月8日を控え、新たに30の銀行・保険・年金が総額2060億ユーロの旧ギリシャ国債を新ギリシャ国債に交換することに同意。国債額面の39%に相当する量を保有する集団なので、これで、ほぼ50%のギリシャ国債民間保有者が実質7割近い債務削減に合意したことになる。この50%はギリシャ政府にとって非常に意味のある数字。というのは、これでCAC(集団行動条項)を発動できるからだ。つまり、いざとなれば、50%の同意があれば、残りの50%が仮に非同意でも、「強制的」に同意させられるというエース・カードを手にしたことになる。この切り札をちらつかせつつ残りの非同意者に同意を迫るであろう。こうなると貸し手より借り手のほうが開き直りの強気に出られる。
強行すれば、それこそ「ハード・デフォルト」と認定され、CDS(デフォルト保険)の保険金が支払われることになる。それはそれで、保険金を支払う会社が資金負担に耐えられるかという信用問題もはらむのだが、マーケットはとにかく一歩前進と評価した、或いは、一歩前進と買いの材料に仕立て上げたともいえる。
一方で、デフォルトにならないとCDS保険はおりないので、デフォルトを望む関係者も多いわけで、ここが今回、一番厄介なところ。ギリシャ第二次救済案については関係者=EU首脳の全員がデフォルト回避スタンスでは纏まっていたので先送り妥協が暫時成立した。(スペインやイタリアへの延焼を防ぐ防火壁(救済資金)が構築されるまではデフォルト回避姿勢なれど、防火壁完成の暁には、ギリシャを捨てるかもしれないが。。。。)

株、商品市場ともに、先送りだろうが何だろうがとにかくギリシャ・リスクが視界から消えることを望む。同時に、QE3は新型だろうが旧型だろうが視界に入ることを望む。
リスクを国債買い取りの形で民から官に移転するも良し。
市場は益々、中央銀行主導型の相場形成の様相を強めつつある。

なお、アテネからの便りでは、デモ逮捕者急増で監獄が超満員になって暴動が起きたとか。デモ隊がぶつけるものが生卵ではなくヨーグルトというのもなんともギリシャらしい。というのはギリシャ料理にヨーグルトは定番。日本のヨーグルトとの違いは、布に入れて徹底的に絞り、水分を抜く。そのクリーミーな、まったり感が様々な料理と合うのだ。写真は前菜で出たヨーグルトとオリーブとトマトにオリーブオイルをかけたシンプルな料理。これをスプレッドみたいにパンにつけたり、ディップとして生野菜にからめたりして食する。すっかりはまって我が家でも定番に加えた。

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2012年