豊島逸夫の手帖

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南欧反緊縮の臨界点

2012年9月27日

ギリシャ・スペインの反緊縮デモは暴徒化してきた。中国の反日デモ、中東の反米デモ、欧州の反緊縮デモ。共通項は、最初に最大の痛みが及ぶ低所得者層が理性を失いつつあることだ。
理性を失うと、経済論理も無視される。ギリシャのユーロ離脱、ドラクマへの復帰シナリオはどうみても非合理的である。それにより最も打撃を受けるのが、外ならぬギリシャ国民だ。しかし、「ユーロにこだわるから、これほどの緊縮を耐えねばならぬ」という短絡的思考が共感を呼ぶ状況になりつつある。「ドラクマに復帰すれば通貨切り下げで輸出競争力が回復。2015年までにギリシャ経済は復活する。韓国、アルゼンチンの例を見よ。」とのエコノミストの論調が現地メディアで好意的に紹介されたりする。
アテネのデモ暴徒化は、「ギリシャの無秩序なユーロ離脱」というテール・リスクを顕在化させた。
本欄では7月から「ギリシャ9月危機説」に言及してきた。また、マーケットの欧州危機感が後退したリスクオンの時点でも、「ギリシャ問題は未だ6回裏。これからクローザーの出番も、延長戦の可能性もある。」と書いてきた。本稿では、ユーロ離脱で「コールド・ゲーム」となる可能性も、と述べておく。

そして、スペイン。
ここでも、痛みが真っ先に弱者を襲っている。
新著では、欧州現地ルポの「小さなギリシャを抱えるスペイン」の原稿で、バレンシア州の例を挙げた。
「学校への運営経費支出が滞り、2011年分の予算が2012年2月にやっと執行されたという。そのカネは、溜まったツケの支払いで瞬時に消えた。そこで、当座の清掃費やら給食補助費やらは、保護者が一部出し合ってしのぐ。その保護者や生徒たちがデモをしたところ、警察に道路に押し付けられるという映像がTVで流れ、問題化した。」
そのTV局で、あきれた例がある。
同州のRTVVという地方局が、なんと1700名もの従業員を抱えていた。そこで1300人をレイオフするというリストラとなったのだが、これに強く反発した社員が番組放送を中断したのだ。
ここで浮彫になった事が、欧州に見られる「クローズド・ショップ制」の弊害。
この制度は、元々、イギリスの産業革命で、手工業の熟練労働者より低賃金の単純工が増え、熟練労働者が自衛策として職業別組合を結成したことに始まる。
企業は特定の職業別組合に加入している労働者のみを雇用する。
職業別組合では、技能の水準に即した賃金が設定され、それ以下の賃金での労働を拒否できる。
企業としても熟練労働力の確保というメリットがあった。
しかし、長年の労使慣行により、職業セクターが細分化され、被雇用者数が膨張する結果となる。
RTVV局の例などは、その最たる現象であろう。
いま、スペイン政府は、非効率化した労働市場の改善に取り組み始めた。しかし、労働者は必死に既得権の確保に動く。対するラホイ首相としては、救済を要請するには、断固とした労働市場の構造改革という条件を受け入れざるを得ない。
更に、国民生活への打撃としては、付加価値税が3%(食料品は2%)上がって、21%となった影響が大きい。
慈善団体の報告レポートでは、60万人が無所得、22%の世帯が「貧困状況」と認定されるという。
それでも、スペイン人のプライドは高い。
慈善団体が貧者への食糧配布センターを建設しても、慈善団体の看板は一切掲げず、一見普通のスーパーマーケット風にする配慮までしている。「人間としての尊厳」と厳しい現実との狭間に庶民は呻吟し、一部は自棄気味に暴徒化する。
「ギリシャと同列に扱われる」ことへの強い抵抗感も容易に消えぬ。
ラホイ首相が「屈辱的なギリシャ並みの条件つき救済」を申請すれば、デモは更に激化しよう。

さて、昨日は、丸善オアゾでの出版記念セミナー&サイン会。主催者の丸善側が「歩留まり」を普通の6-7割程度に見込んでいたところ、9割以上が参加となり、定員100名オーバーしてしまい、臨時椅子を並べることに。例によって台本なし、パワーポイントもなしのぶっつけ本番。本音ぶっちゃけトーク。後半は、ムック本のアラサー女性対談にも出てくれた独立系女性株式アナリストの崔さんとのトーク。株式投資初心者には、業界の裏事情が分かって参考になったとの声多し。セミナー常連のレースクイーン 小泉みゆきチャンも参加していたのでこの際紹介しました。というのは常々、若手のセミナー参加者が「彼女は誰?」と好奇心ムンムンだったから(笑)。
そして、日経CNBC番組での相方である江連裕子さんも仲間のキャスターたちと参加してくれたので、中国でのロケ裏話をやりました。昨晩のツイッターには「こんな美人ぞろいのセミナー見たことない」という呟きもあり、華やかな勉強会となった次第。日経マネー誌で記事化されるので、プロのカメラマンが撮った会場風景写真があがってきたら貼りますね。ムック制作に関わった全員女性チームも壇上で紹介しました。
さて、次は、大阪で。こちらは自主開催で、ターゲットは特に女性とかにはしません。(昨日は女性が7割くらいでしたが。)ベストセラーで筆者も推薦する本「退職貧乏父さんにならない6つの方法」(日経マネー編集部著)と合体してやるので、また、別の味が出るでしょう。一段落した今日、会場探しします。

2012年