豊島逸夫の手帖

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金メジャーが殺到する「金環」

2014年5月21日


「ring of fire」リング・オブ・ファイアー。 金環日食をイメージして金市場で使われる用語だ。それは具体的に環太平洋火山帯の周辺国で金生産が増えている現象を指す。
近年の金生産国トップ20国別生産量推移の表をご覧いただきたい。


 2011 年 1997 年
1.中国371  153(5位)
2.オーストラリア258  313(3位)
3.米国232  359(2位)
4.ロシア211  138(7位)
5.南ア197  492(1位)
6.ペルー188  75(8位)
7.インドネシア111  102(6位)
8.カナダ107  168(4位)
9.ガーナ91  56(10位)
10.メキシコ86  26(16位)
11.ウズベキスタン71  83(9位)
12.ブラジル67  59(12位)
13.パプアニューギニア62  49(11位)
14.アルゼンチン59  3( - )
15.タンザニア49  5( - )
16.マリ45  17(20位)
17.チリ44  53(13位)
18.フィリピン37  34(14位)
19.コロンビア36  22(19位)
20.カザフスタン36  10( - )
世界総生産量2818  2480 
年平均金価格1571  331ドル
総生産コスト(世界平均)809  315ドル

総じて、金価格が474%%も跳ね上がっているのに、金生産量は13%しか増えていない。生産コストが256%も急上昇している。国別では、なんといっても南アの凋落が目立つ。もはや新規鉱山開発では地下3000メートル以上掘らないと金鉱石が出てこない。しかし、そこまでエレベーター、換気、冷房などの設備投資をすれば生産コストが更に跳ね上がるので、採算ラインにはとても乗らないのだ。オーストラリア、米国、カナダなども生産量減少傾向だ。代わって、生産量を増やしているのが、中国。金資源豊富な国なのだ。そして、ぺルー、インドネシア、メキシコ、ブラジル、パプアニューギニア、アルゼンチン、チリ、フィリピン、コロンビアなど、(地理で習った)環太平洋火山帯に位置する諸国。ちなみに、日本は年間8.7トンの金を生産するが、その殆どが鹿児島県菱刈にある住友金属鉱山の金鉱山だ。これらの地域の特徴は、地下のマグマからの熱水に金純分が含まれ、沈殿し、鉱床化すること。熱水鉱床、あるいは、温泉とともに噴出するので「温泉鉱床」などと呼ばれることもある。(菱刈の周辺には温泉街があるし、青森県の恐山でも金鉱脈が確認されているが、国定公園内ゆえ、開発は出来ない。)


このような状況下で、南ア、米国籍の「金メジャー」と呼ばれる大手金鉱山会社は、比較優位を持つ鉱山技術そして鉱山技術者を武器に、相次いで、金の「金環国」に進出している。しかし、現地では資源ナショナリズムの圧力で、一定の制約条件を課されている。
今後、有望な埋蔵量は、太平洋などに存在が確認されている海底金鉱脈だが(日本でも伊豆半島沖とか沖縄周辺海域に金などミネラルを豊富に含む鉱脈が確認されている)、原油と異なり液状ではないので噴出してくれない。1トンの金鉱石から3グラムも金純分が抽出すれば御の字の世界だから、海底金鉱山開発ともなれば、天文学的な生産コストとなり、おそらく金価格が1万ドルになっても採算ラインには乗るまい。
今後、金の供給増加は、二次的供給源と言われるリサイクルに頼らざるを得ない。金買取店の「環」は有力な都市鉱山のインフラなのだ。


さて、足元の金価格は1590ドル台まで急反騰。先週金曜日のNY株式市場大引け10分前には、NY金価格がスルスルと1595ドルと1600ドル寸前まで上がり始めた。何事かとNYに電話を入れると、フェイスブック株を見切り売りの投資家マネーの一部が時間外取引を通じて急反騰中の金に「週末パーキング」していると言う。
その直後から、大引けまでの10分間を言われるままにウオッチすれば、フェイスブック株価が38.05、38.03、38.01そして遂に38.00と公開価格を割り込みそうな下げ。デイトレーダーの見切り売り。機関投資家もギリシャ情勢も気になり週末まで持越したくないのでとりあえず手放したい気持ち。
しかし、今回のIPO引き受け会社主幹事を務めるモルガン・スタンレー・スミス・バーニーにしてみれば、ここで38.00で引けるか、37.99で引けるかで、天と地の差がある。公開価格下回り週を越せば、来週月曜には、個人投資家の失望売りの波に見舞われるは必定。
なんとしても38ドルは死守せねばならぬ。
大引け間際の投資家からの売り注文は「全買い」で必死の防戦だ。
既に取引所は大混乱。というのは、過去最大級のIPO売買高で、顧客からは「売買注文の確認がとれない」の苦情が殺到していたからだ。ツイッターなどソーシャル・メディアには「朝一で出した買い注文の確認が未だ来ない!」などの書き込みが目立つ。
息詰まるような10分間。なんとか38.23ドルとギリギリのところで幹事会社が、守り切った。とはいえ、大引け後20分くらいは、市場混乱の余波で、なんらかの売買エラーなどの「ちゃぶ台返し」があるのでは、との緊張感が残っていた。
マネーの「週末パーキング場」の一つに選択された金市場の価格も38ドル死守確認とともに、市場の安堵感を映すか如く、時間外取引で5ドルほど下げた。


さて今晩のNY市場でフェイスブックも金価格も果たしてどの値位置で寄り付くか、気になるところだ。
ここまで急激に反騰されると、筆者が弱気から強気に転じたものの、足元ではその強気も萎える。しかし、世界中の金投資家が「下がったら買う」。金価格下落のタイミングを待っていた、今も待っているのだね。今後ギリシャ・リスクが再びリスクオフの金売りを招く局面もあろう。そこで、今回と同じような展開の再演も予想される。何度も繰り返すが、欧州債務危機は6回裏から7回表に進んだ程度。これからクローザーの出番も、場合によっては延長戦もあろう。短期的乱高下を繰り返しつつ、徐々に根雪と新雪の境界が1500ドルから1600ドルに切り上がってゆくようだ。


なお、週末の仙台セミナーは、昨年出来なかったので、2年ぶりだし、被災地でのセミナー開催なので力が入り、会場制限時間いっぱいの2時間半喋りまくった。仙台はいつでも出席率が90-95%と高い。熱心だし、笑いが絶えず、和気あいあいで、いい感じだった。現地の地方経済も復興需要のパワーを感じた。帰りの新幹線では、差し入りの、笹かまぼこ、ずんだもち、萩の月などをつまみ満腹。
次の地方講演は、6月9日の北九州 ↓


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2012年