豊島逸夫の手帖

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アテネが横須賀化する日

2012年6月19日

ギリシャ関連情報は、東京より北京に居るほうが伝わってくる。
ギリシャ再選挙直前の週末は、中国経済減速視察の為の北京訪問となったのだが、そこで感じたことだ。
「ギリシャは中国の欧州への入り口」
これは、当日のチャイナ・デイリー紙の一面見出しであった。本欄6月5日付けで「欧州に入り口・ギリシャ、忍び寄る中国の影」と題して書いたばかりなので、興味を惹かれ記事を読めば、中国高官ではなくギリシャ高官のコメントであった。ギリシャ政府の公式スタンスとしては、チャイナ・マネー熱烈歓迎ということらしい。
マネーばかりではなく、人の交流も活発化している。
北京からアテネへのアクセスも、現代版シルクロードは空路。中国国際航空のフライトでエコノミー運賃(サーチャージ込み)が僅か16030円だ。
中国がアテネ近郊の港湾施設を買収し、アテネ国際空港の権益獲得にも動いていることも、先述の本欄記事で詳述したとおり。
港湾施設を買収したコスコは中国国営企業だ。そこには国家戦略も透けて見える。地政学的に重要なバルカン半島の空港、港を押さえることは、欧州への実質的前進基地構築とも言えよう。そこに中国戦艦が寄港するようになれば、アテネ近郊の港湾都市が横須賀のような存在になるかもしれない。そんな想像も掻き立てられた。
特に、再選挙で緊縮派勝利とはいえ、ギリシャのユーロ離脱の可能性は依然消えない。仮にもそうなれば、反動で、ギリシャがロシアや中国を向くは必定だ。

更に、チャイナ・マネーはギリシャの持つ豊かな資源にも目をつけた。エーゲ海に燦々と降り注ぐ太陽光である。既に風力発電では世界第七位の東方電気が、ソーラーモジュール関連の特許を持つギリシャDTS社と「長期戦略的協力協定」を締結。中国製のソーラーモジュール使用と、DTS社の特許技術使用許可の条件付きで、太陽光エネルギー・プラント建設に20億ユーロ出資するそうだ。ちなみに、その特許技術とはソーラーモジュールへの太陽光入射角を自動的に最適に調整する装置である。

中国流のギリシャ救済資金投入法は、したたかで戦略的だ。
温家宝首相が自らギリシャを訪問したときも「困っている友人を助けるためのギリシャ国債購入」を発表したが、今に至るまで、その正確な額は明らかにされていない。
チャイナ―マネーに買収された海運企業の船舶ドック労働者250名が解雇或いは早期退職となり、熟練工の賃金も一日120ユーロ(約12000円)から50ユーロにまで引き下げられたとも現地では報道されている。残業手当もなく、いつでも解雇される労働形態のようだが、今のギリシャ人労働者に他の選択肢はない。

アテネと北京の現地を巡ると、両国関係の実態が様々なアングルから浮かび上がってきた。

なお、金価格は、ギリシャ・リスクがやや後退して、「安全性への逃避マネー」が若干流出したが、スペイン国債利回り7%超え、更に、FOMCでの追加的金融緩和措置の可能性を意識しつつ、下げ渋り。1630ドル前後まで買い戻されている。

2012年