豊島逸夫の手帖

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中央銀行主導の相場展開

2012年2月29日

ECB(欧州中央銀行)は欧州系商業銀行に対し、3年間金利1%でユーロ無制限融資という大盤振る舞いに出た。ドラギ新総裁のこの新手の策は、市場で頗る評判が良い。「これでクレジット・クランチ=信用収縮に歯止めがかかり、第二のリーマン・ショックのリスクは回避された」と言い切る市場関係者もいる。
今日は、その第二弾が実行される日。
マーケットでは、銀行群から5000億ユーロ(約54兆円)程度の融資申し込みがあると予測されている。
LTROと呼ばれるこのマネーじゃぶじゃぶ作戦は、実質的な量的緩和と市場では看做され、欧州経済危機緩和に資するのでリスク・オン=株も商品も買いの材料とされる。
然し、問題は、LTROⅡの投入量である。
今回は特例措置として、融資の担保要件も緩和されている。
ということは、キズありの担保に基づく融資額が多ければ多いほど、ECBのバランスシートは不健全な形で膨張する。民のリスクを官が引き受けることで、官の財務諸表が痛む。リスクが消えるわけではない。
従って、あまりに融資額が多いと、これはこれで、マネー供給過剰の合併症の懸念が顕在化するので、一転リスク・オフにシフトする可能性もある。
更に、今日は、バーナンキ議会証言の日でもある。
好転の兆しが見える米国経済に反応して、「2014年終盤までゼロ金利継続」方針を変更し、利上げ前倒しを示唆するような表現でも使えば、市場としては、ハシゴを外された格好で、高揚感が一気に委縮するかもしれない。
特に、今年6月で終了予定のツイスト・オペ(長期債買い取り、短期債売り操作)後の対応が注目される。
日本では、日銀の追加的金融緩和が外為市場の景色を変えたばかり。
新興国市場は、やはり金融当局の緩和傾向を囃して買われている。

いまや、株も金も、各国中央銀行の出方に一喜一憂、短期的乱高下を繰り返す。
といっても、中央銀行が滅多なことで本音を明言することはない。声明文に使われる形容詞や副詞の微妙なニュアンスに、政策スタンスを滲ませる。その行間を探りつつ動く市場は、さしずめ「英文解釈相場」とでも言えようか。
株も金も、中央銀行主導の相場展開である。

2012年