豊島逸夫の手帖

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アベノミックスの世代別リスクと資産防衛

2012年12月18日

昨晩、日経主催のニッポン金融力セミナーで講演した。投資初心者も多く、総選挙直後のタイミングゆえ「安倍新政権になったら個人投資家としてはインフレ防衛策が必要なの?」という質問が多かった。
初心者向けに解説すれば、アベノミックスとは、日銀には物価上昇率が2%になるまでは無制限におカネを供給させ、大型財政出動に必要なおカネは国が新たに借金証文を発行して、それを日銀に買い取らせることで国の台所をやり繰りする、という案だ。
でも、物価上昇率がピンポイントで2%前後になるようにおカネを供給してゆくことは至難の業。点滴投与で患者の体力を回復させる処置に例えれば、おカネを投与しても、みるみる経済の体力が戻るわけではない。だから、つい結果的に過剰投与になりがちだ。投薬が過剰になると、高血圧、或いはショック症状などの副作用を引き起こす。マネーの過剰投与の副作用はハイパーインフレだ。

この治療が成功するか否かは、ドクター・シラカワ(或いは後任者)の腕ひとつにかかる。ドクターには、安倍病院長から、もっと投薬を増やせ、新たに発行する国の借金証文も買い取れ、との圧力がかかる。
日本経済を患者とすれば、容体は重篤だ。長引くデフレとの闘病生活で基礎体力もかなり落ちている。だからこそ、その治療には「劇薬」が必要との所見である。
危険な賭けだが、日本国民は総選挙で敢えてこの劇薬治療を選択した。
決めたからには、筆者も日本国民として是非成功してほしいと願う。

同時に、個人投資家としては、劇薬のリスクに備えておかねばならない。今は、デフレのドツボだが、過剰投与の副作用を考えると、インフレ・ヘッジが必要になる。
インフレは、まず高齢者の蓄えの実質価値を奪う。
現役世代は物価上昇すれば給料も名目的に上がってゆく。
しかし、いずれ国の借金証文のツケが廻ってくる世代でもある。そのツケを払う人の数は、少子化で確実に減ってゆく。ツケが払えなければ、ギリシャやスペインに見るような、給与カットなどの緊縮生活を強いられる。筆者は、その実態を現地で何回も見て、このコラムでも詳しくレポートしてきた。
そこで見たことは、個人投資家は、勝ち組と負け組に二極化であった。その差を分けたのは、普段から「財活」してコツコツ貯めた蓄えがあるかないかであった。イソップ物語に例えれば、アリ組がキリギリス組か、の差が残酷なまでに出ていた。
帰国して若者たちに「おまえら、何があっても半年から一年は最低限の生活でやりくりできる蓄えがあるか」と問うた。多くの若者は、当惑しつつ「えーっ!ないっす!」と答えた。
断っておくが、来年にも国が溜めたツケが廻ってくるわけではない。但し、東日本大震災と安倍新政権の誕生で、その時期が2-3年は早まりそうだ。
だから、若い現役世代は、今のうちから、身の丈に応じてコツコツ金プラチナも含めた資産を積み立ててゆくことが大切。今はETFという便利な投資商品もあり、一口数千円から数万円で株、債券、商品、外貨投資商品などを買うことが出来る。まずは半年から一年、いろいろなETFを一口でも買ってみることだ。さすれば、人間には欲があるから、それまで、テレビのワイドショーしか見なかった人でも、急にNHK BSの国際ニュースなどを見始め、イラン情勢だ、バーナンキ発言だと気になり始めるもの。そうなれば、しめたもので、自然なカタチで日本人に足りないとされる国際感覚が身につき、一年もすれば、相場感覚らしきものが、おぼろげながらも育ってくる。リスクに対する漠とした恐怖感もやわらいでくる。そのうえで、更に勉強して、もう少し深入りすればよい。ETFを入門商品として、次の段階で間口を広げることだ。
投資は、理屈より、多少なりとも身銭を切り、実践してみないと感覚は分からない。頭でっかちでは、決断が出来ない。
若者には、一回居酒屋に行って使う3000円を毎月貯めて、まず投資体験をしてみろ、と説いている。

さて、円安で海外金価格が下がっても、国内金価格は下がりにくくなった。まだ、この傾向が定着したとはいいかねるが、昨日も書いたように潮目が変わってきたことは事実。「円高で海外の金が上がっても相殺されるばかり」とも言えなくなってきたわけだ。古い市況の法則は通用しない。頭の中のモード切り換えが必要だ。

さて、今日から関西出張。
仕事の合間に京都南座の顔見世を見てくる。
勘三郎の死は個人的にショックだったので、感慨深い。
今週末はいよいよ初スキー。そろそろ毎朝の相場チェックの真っ先が、ガーラ湯沢の積雪量チェックになりそう(笑)。
1月には戦略的(?)に札幌セミナーを入れた。下心ミエミエ。札幌の回転鮨はレベル高いから、季節のタチなど食するのも楽しみ。スキー板は定山渓の知人邸にボトルならぬスキー・キープしてある。

2012年