2012年1月27日
現在、筆者はリスボン滞在中。次の訪問地はアテネ。債務危機に喘ぐ現地の空気を吸っている。
奇しくも、今週の欧米市場では「ギリシャの次は、ポルトガル」との懸念が急速に拡大。ポルトガル国債の利回りは15%を突破し、過去最高水準を記録。欧米メディアも一斉に、ポルトガルのデフォルト懸念を大々的に伝えている。筆者が滞在中のホテルは、外国通信社の記者やロンドンの大手投資銀行幹部たちの常宿とのことで、ロビーも日夜慌ただしい。顔見知りの通信社英人記者と遭遇したので、聞けば、ロンドンからアテネへの派遣部隊の一部が急遽、リスボンに集合中とのこと。
たしかに、ポルトガルの債務事情は悪化している。ECBが欧州系銀行に対し、3年間無制限年率1%の融資に踏み切ってから、南欧国債の利回りは落ち着いたが、唯一の例外がポルトガル国債だ。
S&P社による欧州一斉格下げにより、ポルトガル国債が「投機的水準」というジャンク債扱いになったことで、多くのファンドが内規により同国債を保有出来なくなり、買い持ちの強制売り手仕舞いが相次いでいる。欧州債券指数の対象からも外された。
この危機的状況の中で、リスボンの市街は異様な静けさに包まれている。DNA的に陽気な国民性なのに、必至に緊縮政策に耐えている感じが伝わってくる。人通りが絶えたわけではないが、観光客(特に春節中の中国人。筆者もまず中国系と間違われる。)ばかりが目立つ。
現地の人と話していても、日本人と分かると、急ににこやかな態度に豹変したりする。デモや若者の暴動などは、ほんの一部の例外的な行動に過ぎない。街中を歩いて、身の危険を感じることなどまず無いどころか、道を横断する時に、欧米では珍しく、「必ず」車が止まって歩行者を優先させる。
とはいえ、今、ポルトガルで嫌われている国籍が、ドイツと中国。
ドイツに関しては、「もはや我が国はメルケルの支配下」という反感が満ち、ドイツ製品ボイコットまで生じている。
中国は、電力会社などインフラ関連に、CIC(中国政府系ファンド)が次々に投資しているので、やはり「このままでは乗っ取られる」との警戒感が強まっているのだ。
しかし、国債の返済能力が絶対的に欠けている現状では、いかんともしがたい。結局は、ドイツや中国からの直接間接の救済資金に依存せねばならぬ。
ユーロに関しては、国民感情が真っ二つに割れている。
経済的知識がある層は、ユーロ離脱などとんでもない、と一蹴する。旧通貨に戻れば、ハイパーインフレが不可避。「ユーロという大樹にすがるしかない。」と言いつつ、その当人自らは、新たな職をブリュッセルのEU本部に求めていたりする。国を見限ることが出来る能力を持った人たちは、「頭脳流出」に動いている。
一方で、ユーロ加盟にしがみついているから、緊縮政策を強いられ、給与も年金もカットされる。この際、ユーロから離脱したほうが、当面の生活は楽になると考える国民も多い。どうせ借金を返済できないのだから、開き直って自己破産の道を選択するという発想だ。
自国通貨を捨て、地域共通通貨を採ると、通貨安誘導で経済回復のキッカケを掴むという政策対応が出来なくなり、給与などのコストカットという、直接的に国民に痛みを強いる緊縮政策に依存せざるを得ない。その厳しい経済の論理を、現地でヒシヒシ感じるのだ。
未だ資金的蓄えのある勝ち組と、無い負け組の残酷なまでの差も見せつけられた。地下鉄終着駅の郊外まで足を伸ばしたが、そこの丘陵に、日本流に言えば「青いテントの家」が散在していた。しかし、丘の上には近代的な団地群が拡がる。
歴史的に見れば、大航海時代の黄金期には世界の海を制し、リスボン市内には世界遺産が残るポルトガル。然し、現代では一周辺国に過ぎぬ。しかし、足元では欧州債務危機がギリシャからスペイン・イタリアに本格伝染するか否かを決める立場になってしまった。
国内産業基盤に欠ける現状では、筆者の見方も悲観的にならざるを得ない。ギリシャ国債大量償還を迎える3月20日が、ポルトガルにとってもXデーと語る一国民の言葉が印象的であった。