2012年12月26日
新政権が掲げる「成長戦略」実現の必要条件として現場で感じること。それが、コンプライアンス偏重という最近の「企業風土」だ。
企業の成長戦略にイノベーションは不可欠。しかし、新たな企業価値の創造にリスクはつきもの。そのリスク・テークの芽が摘まれている。
知人が大企業のCOO(チーフ・オペレーションズ・オフィサー)に「昇進」した。「おめでとう」と言うと、浮かぬ顔で「CO2同様削減対象さ」と自嘲気味に語る。
今、大企業内で実質的に一番偉い人はCCO(チーフ・コンプライアンス・オフィサー)であることが多い。CEOも一目置く存在になりつつある。更に、現場の事業統括者としての責任を問われるCOOの人事評価もコンプライアンス項目のウエイトが大きい。
件の知人は非常に冷静な人物なのだが、その彼が珍しく顔面蒼白で取り乱した表情を見せたことがある。何事か、と尋ねれば、秘書が個人携帯を紛失したとのこと。その携帯に、業務関連情報が入っていなかったことの挙証責任まで課せられかねないのだ。
一般社員の人事を見ても、コンプライアンス項目のマイナス評価が最も少ない社員が昇進してゆく。まさに減点パパの世界である。
イノベーション能力に優れた社員は、新規プロジェクト提案に際し、コンプライアンス順応性を厳しくチェックされ、結果的に何らかの抵触が明らかになれば、直ちに修正を求められ、その事実は人事考課表に明記される。
こうなると、社内的に新規提案などでキャリア・リスクを取る社員は減少の一途を辿り、社内リスク回避の風潮が加速する。
社内組織図を見ても、現場の社員1人に3人の「お目付け役」が点線のレポーティング・ラインでつながるようなトップ・ヘビーの構造になりがちだ。そこから派生する社内メールのccの件数も異常に膨らむ。
また、大手企業で、幾つかの超大型プロフィット・センター部門を持つ場合には、他部門は、「おみこしを担ぐふりをしろ」と暗に指示される。まともにおみこしを担ぐと、情報流出などの思わぬレピュテーション・リスク(風評リスク)を被る可能性があるからだ。
しかし、総合商社などの看板を掲げている以上、「他部門」も必要。多岐に亘るセクターに対応できる企業としての体裁は整えねばならぬ。
トレーディング部門なども典型的な例で、他社もやっているから、横並びで設置した部門なのだが、相場リスクに晒され、想定外のリスクが発生しやすい。かといって、トレーディング部門がなければ、ヘッジ機能ありや、と問われる。そこで「生かさず殺さず」の扱いを受ける。
更に、現場の長は、コンプライアンス監査軍団が来訪するとき、軍団への「おみやげ」に頭を悩ませることがしばしば。1週間近くも社内会議室を占領して洗いざらい帳簿を調べ上げてゆく。その上で、「なにもなかった」では軍団のメンツも立たぬ。そもそも彼らは、その仕事で給料を貰っているわけだ。そこで、現場の長としては、いくつかのイノセント・エラー(見つかっても大事にはならぬ程度の間違い)をあちこちの帳簿に埋め込んでおくのだ。これが「おみやげ」。宝探しの如く、軍団が「これ、めっけ!」となったとき、現場の人間は思わずニヤリとする。
それにしても虚しい。
コンプライアンス強化は勿論必要なのだが、結果的に、社員の多くが新たな事案に取り組むリスクを取りたがらない。今、まさに日本が必要としているイノベーションの芽が企業自らの手で摘まれている。
なお、このような企業文化の変遷とともに、トップ経営陣にまで上り詰める人たちのタイプも変わってきたように感じる。例えば、脂ぎってアクの強い個性的な専務より、「好かれる三男坊」タイプの専務が増えてきたように思う。直接話す機会が多いので感じることは、周囲に警戒心を抱かせず、非常に感じが良い人物との印象を受ける。しかし、いざとなると「黙って人を切る」時代劇の殺し屋の如く、「カット・マン」と変身するのだ。だから、部下たちにとっては、「なに考えているのか図りかねる不気味な存在」となる。
そこで、筆者のような独立系の人間が、カット・マン氏の部下に頼まれ、上司とサシの会食を設定されたりする。事後の筆者からのフィードバックで本音を探る目的なのだ。
外部の人間に、社内情勢の「毒ガス」に反応する「炭鉱のカナリア」役を依頼せざるを得ない実態を見せつけられると何とも切ない思いがするものだ。
さて、新年2013年初セミナーは1月19日東証ホールで東証主催になりました。定員200名。↓
http://www.tse.or.jp/learning/seminar/etf/jtb-0119.html (現在公開されていません)
(或いは 東証 セミナー 豊島逸夫で ググれば出てくるはず)
セミナー内容は「新年市場展望」からおそらく脱線して(笑)本音ぶっちゃけになりそうww
昨日はミッドタウンの、上品な濃いチョコレートケーキ専門店で「2013年戦略会議」w
そしてTBSに廻って「よるべん」という深夜番組の「どっちの投資ショー、金vs不動産」の打ち合わせ。ガチンコ対決で面白そう。
その後、古巣へ寄って、和やかに談笑。