豊島逸夫の手帖

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ファンドの円安陽動作戦に気をつけよう

2012年11月30日

11月19日付け本欄「安倍発言でドルが最強通貨に」にこう書いた。

以下、引用・・・
現在、主にシカゴ通貨先物市場で円売り攻勢をかけているファンドの動きには、いまだ極めて流動的な(政治)シナリオを囃し、「噂で売って、ニュースで買う」手口が透けて見える。「安倍円安」の継続期間は、せいぜい選挙前の噂の段階までであろう。
「安倍発言」は、外為市場に不確定要素に基づく円の異常な下げというmisprice(ミスプライス)現象を産んだ。こういったミスプライス現象は、いずれ是正されると読み、先行して動くのがヘッジファンドの得意技だ。
仮に安倍連立政権になっても「無制限国債買い取り」「マイナス金利」「日銀法改正」へのハードルは極めて高い。短期的には、この降ってわいたような円安は、せいぜい選挙前までとみる。長期的には、基礎的円高圧力も依然強く残る。
「安倍円安」がもたらした株高は、市場がくれた冬季臨時ボーナス程度として、市場の気が変わらないうちに、ありがたく頂くことにしよう。
・ ・・引用終わり

さて、いまや、いよいよ11月も終わり。米国では「財政の崖」まで「あと32日」というカウントダウンが始まった。
崖の瀬戸際が視野に入ってくると、そろそろヘッジファンドも仕掛けの手仕舞いに動き出す。
その象徴的現象が、今朝(30日)日経朝刊マーケット総合2面に価格グラフつきで書かれている「NY金市場大量の売り注文で、5分で50円急落」という出来事だ。
28日のNY市場早朝(日本時間夜11時)のことであった。NYのディーラーが出勤して、さてこれから寄り付きとデスクにつく瞬間が狙われた。筆者も相場画面を見ていたが、アッという間にbig figure(市場価格の大台)が変わり、1735ドルから1707ドルまでストンと落ちた。一瞬、眠気による見間違いかと錯覚したほど。推定24トンの成り行き売り注文が、ファンド筋により一挙にインプットされたのだ。
市場の常として、このように大量の売りが発動されると、一般投資家のストップロス売り注文も一斉に発動され、市場内に雪崩現象を誘発する。その結果、5分程度で推定115トンの売買が市場をヒットした。通日でも史上最大級の出来高を記録している。(ちなみに年間金生産量が2822トンの世界である)
近年、株式市場でもフラッシュ・トレードとか高速度取引と呼ばれるが、瞬時にエアポケットに遭遇した如く価格がさしたる理由もなく急落する場面が起こる。その金市場バージョンである。
28日に金市場が陥ったエアポケットも、特に突発的材料が飛び出したわけではない。しかし、結果的には、これで、プロの言葉で言えば「短期的に相場のカタチが悪くなった。」上昇傾向にあったトレンドの頭がガツンと打たれた感じである。
冒頭の引用文に即していえば、そろそろ潮時と見た「先取りファンド筋」の手仕舞い攻勢第一弾であろう。金市場は特に先取りして動くので、市場全体の先行指標として位置づけられることが多い。

金の次に血祭にあげられそうなのが、円売りポジションだ。冒頭の記事以来、シカゴ通貨先物市場での円売りドル買いポジションは膨張。5万枚を超した。これは、かなりの円売りポジション蓄積を示すバロメーターである。ヘッジファンドはお腹いっぱい円売りポジションをためこみ、「利益確定買い」の機会を虎視眈々と狙っている。
そこで、意図的に市中に流布されるのが、「構造的円安転換論」のアナリスト・ペーパーだ。「ブリックス命名者の預言」などの冠がつけば流布効果は増幅される。
冷静に見れば、たしかに、日本の経常収支黒字は収縮している。しかし、そのマーケットへのインパクトは「強力な円高圧力を食い止めるほどの」効果に限定と解釈すべきだろう。
それが更に急激な円安にまで進行した現象は、ヘッジファンドのサヤ取りを狙った円売りの「ドカ雪」といえよう。ドカ雪は、ちょっとした物音(誰かが叫ぶ「買いだ!」との声)などで、瞬時に表層雪崩を引き起こす。

ときあたかも、カリスマ・ファンドマネージャー、スティーブン・コーエン氏が率いる米大手ヘッジファンド「SACキャピタル」のポートフォリオ・マネージャーが「史上最大級」といわれるインサイダー取引で連邦地裁に訴追請求されるスキャンダルが業界に衝撃を与えている。
アルツハイマー治療薬の臨床試験に関するデータを担当医師から入手して、それがニュースとなる前にコーエン氏に製薬会社の米ワイスとアイルランドのエランの株式を売却するよう助言したとされる。その結果、同ファンドは、2億7600万ドル(約225億円)の損失を回避できたという。
このインサイダー事件は、ただでさえ情報開示不十分とされるヘッジファンドへの疑惑を高める結果となり、一部投資家のヘッジファンド解約が始まっている。
クリスマス休暇前の手仕舞いモードに加え、この事件が起こり、一部のヘッジファンドでは、運用資産の売却現金化を強いられよう。
円売り、金買いポジションなどは数少ない「益出し」の源泉として真っ先に売られる可能性がある。
ファンドが円を買い戻すときには、まず「構造的円安転換論文」を市中に流し、投資家が円売りモードに乗ったときに、コンピューター・トレードで一挙に大量の円買いを仕掛けるのがプロの常套手段だ。
「安倍円安」は派手なフィナーレで終幕するシナリオがちらつく。

さーて。いよいよ冬到来。山は雪だ!スキーにワックスかけて準備万端!!
ブログの文にも、根雪とかドカ雪とかの用語が増えて、頭の中はスキーモードw
冬季はブログ更新間隔が空くかもね。ww
ただ、誰かに今はやってる風邪をもらってしまった。
風邪ひいたら、まず生姜擦って、(喋る機会が多いので喉に良い)カリン入り蜂蜜を混ぜて飲む。あとは、いつもよりしっかり寝るだけ。昨日も古巣WGC主催のイベントがあったけど、長居せずに、人ごみから離れた。会場がホテル・マンダリンだったので、近くの三越のフォートナム・メーソンでケーキとお茶で暖まろうと知り合い捉まえて行ったのだが、午後3時のティータイムゆえ女性客で超満席。しかたなく、同じフロアーの出来立てバウムクーヘン&お茶の店にちょっと順番待ちして入った。スーツ姿の男二人なんて、完全に浮いてたね(笑)

最後に、日経ビジネスオンラインのコラム「豊島逸夫の金脈探訪」更新。「10年後 フランスのギリシャ化は不可避」欧州現地ルポ  フランス&ドイツ編 ↓
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20121029/238736/

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