豊島逸夫の手帖

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先週の金市場異変はなぜ起こったか

2012年5月22日

先週5月16日には「リーマン後に酷似、安全資産・金からの逃避」と題して金がリスク回避でリスク資産として売られていることを書いた。ところが5月18日には「ギリシャの呪縛を脱しての金急反発」と題して、金が買い直されているとの話に180度転換。UターンというよりVターンともいえる唐突な値動きで、金は一時1520ドル台まで売り込まれた後、1600ドル寸前まで急反騰した。

そこで素朴な疑問として、金市場で何か起こったのか。
転換点は、FOMC議事録で欧州債務危機の米国への伝染懸念が明確に語られたこと。時あたかも米国マクロ経済データは悪化が顕在化。しかもG8は形骸化。
欧州債務危機だけであれば、ユーロ安、ドル高、円高であったが、米国への波及懸念となると、ユーロ安、ドル安、円独歩高の展開になる。
そこでドル高に反応して売られていた金が、一転、ドル安に反応して買われたのだ。
こうなると、俄かに、米国QE3と欧州版QE1の競演シナリオが現実味を帯びてくる。ドルもユーロも量的緩和で通貨価値の希薄化が進行。「刷れるドル、ユーロから、刷れない金へ」のマネーシフトが進行するとの金市場の見立てだ。

筆者は、今年冒頭の2012年金見通しで、年後半のQE競演シナリオに言及した。
5月のsell in Mayが一巡して、そろそろ、年初に想定したシナリオに移行開始かと感じている。
なお、足元では、昨日、ここまで(1600ドル近辺)急激に戻すと、弱気から強気に転じて間もないのに、その強気も萎えると書いた。
昨日の香港、シンガポール、ムンバイの現物市場は急反騰で閑散。やはり彼らの目下の買いターゲットは1500-1550ドルのレンジのようだ。昨年のように下がったら即買うではなくて、買うのだが、安値圏をじっくり待つという姿勢。1600ドルになると新規ショートもムラムラと頭をもたげそう。
年後半への過渡期は平たんな道ではない。

2012年