豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. NYハリケーン被災 首都圏への警鐘
Page1291

NYハリケーン被災 首都圏への警鐘

2012年11月1日

海抜ゼロメートル地帯のウオール街を含むマンハッタン南部が、一時水没に近い状態になり、証券市場がまる二日機能停止状態に陥った今回の事態。大手町・丸の内・日本橋地区や大阪北浜地区にとっても、他人事ではない。

今回の経緯の特徴は、史上最大級のメガ・ハリケーンが、日曜夜から月曜朝にかけて大都市圏を通過したこと。前週金曜日の時点でハリケーン接近は認識されていたが、切迫感が薄く、各社の対応も後手後手に廻った。NY証券取引所休場の決断も、日曜深夜までずれこんだ。
その最大の理由は、交通網破断などにより必要人員を確保できる見通しが立たなかったこと。電子取引は可能だが、非常時に立ち会い取引を停止して電子取引のみに切り替えることは未体験ゆえ、現場の不安感も強かった。
システムの問題というより人の問題が相対的に大きかったといえる。それゆえ、当初は電子取引のみでオープンの予定が、ギリギリのタイミングで全面取引停止に切り替わった。
ハリケーンにせよ台風にせよ、進行速度は刻々変化する。
金曜の時点で72時間後の月曜の状況まで見通して、週末から社員をホテル宿泊・待機させるなどの決断は易しくない。これが、もし、三連休であれば、なおさらのことだろう。
しかも、地下鉄や橋・トンネルも早い時点で運行を停止とした。こちらも運行・保守などの人員確保が出来なかったからだ。
ゆえに日曜夜の緊急出社も困難な状況であったろう。
NY証券取引所トップの休場決定発表コメントでは、史上最大級のハリケーンから「従業員の安全を守る」ことの重要性が強調されていた。
最後は、「経済機能より人命」である。

次に、大都市近郊の被災地域住民が困っていることは何か。
まず、停電・冠水により、ATMが作動せず現金不足。クレジットカード使用時の認証システムも稼働せず使えない。
そして、携帯端末の充電切れ。
現代の都会生活は、現金もクレジットカードも携帯も使えず、地下鉄不通、ガソリンスタンドには長蛇の列、幹線道路は冠水となると完全にお手上げだ。
特に、現金の重要性は、筆者がアテネでも三陸でも現場で実感したことである。
外為市場でギリシャ問題が囃されユーロが急落中に訪問したアテネでは、市民がユーロ紙幣退蔵に走っていた。三陸の現場では、震災直後、コンビニが再開しても、多くの住民は現金がなく、モノが買えなかった。
そこから得た筆者の結論は、まず、「有事の缶詰」。そして、「有事の現金」。「有事の金」は、その次の話である。金でモノは買えず、食べられない。ゆえに危機に際して、当座は金が流動性選好で売られ、現金化される。危機収束後、資産運用の心の余裕が出来た時点で、長期価値保全(テールリスク・ヘッジ)の観点から、「有事に備えた金」も運用対象の選択肢の一つとして考えることが、本来の「有事の金」の意味合いだ。「有事の金」は売り。「平時の金」が買いである。

2012年