豊島逸夫の手帖

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稼ぐ妻、育てる夫

2012年7月5日

筆者が講演する「経済・ゴールド・セミナー」の景色が変わってきた。リーマン・ショック前までは、圧倒的に50~70代の男性。会場の日経ホールはむせかえるような加齢臭に包まれたものだ。そこに、香水の匂いが混じり始めたのがリーマン後。女性参加率の増加現象が顕著になった。そして、最近では、赤ちゃん連れの氷河期世代夫婦の姿も見られる。「私達、氷河期世代は、生まれてこのかた、何ひとついいことなかった。バブルも経験してない。これからも状況は更に悪くなりそう。それは覚悟しているのだが、可愛いこの赤ちゃんには、そんな思いさせたくない。この子が成人する時、いったい、日本はどうなっているのだろうか。まずは、それを考えたくて、今日の年金不安世代向けと題するセミナーに来ました。」
切実な声であるが、今日の本題はこれから。
赤ちゃん連れなど想定していないセミナー会場には、授乳設備がない。シニア層を前提としているので、トイレの数だけは多い。
そして、赤ちゃんは泣く。そこで、セミナー講演中に「夫婦の戦略的役割交換」現象が起きる。ロビーに出て赤ちゃんをあやすのは、まず例外なく「イクメン」たちである。その間、妻は会場内でひたすらノートにメモを取り続ける。
実は、筆者担当の編集者が「夫婦の戦略的役割交換」問題の権威なので、その薫陶を得て、日本の性別役割の変化については常日頃考えることが多い。
そもそもアメリカの父親が家事や育児に時間を割くようになった背景には、男性の経済力低下がある。産業構造の変化で、男性主体の分野が衰退し、中流家庭の妻も働かざるを得なくなったのだ。
この背景は日本でも同じであろう。
しかし、米国でも日本でも、女性たちは働けど昇進を阻む目に見えない「ガラスの天井」と破るために悪戦苦闘きたのが実態だ。
特に、日本では「飲み会文化」が支配し、子供を持つ女性は、この非公式情報網から疎外されてきたと言われる。しかし、筆者の長い国際企業・機関での体験では、欧米にも「カクテルタイム文化」がある。終業後、パブで立ち飲み、情報交換する習慣。筆者は日本人として未だに、座らず、空腹を液体で満たすことが生理的に受け入れられず、苦痛以外の何物でもない。同僚の英国人に「君たちはこのカクテルタイムをエンジョイしているのか」と聞きまわったところ、半数以上の答えがNOであった。でも、非公式情報網から疎外される懸念から参加しているというのが本音。
そして、最近では、社内喫煙室参加者が、ノン・スモーキングに対する一体感から役職を離れた絆で結ばれ、社内非公式情報網と化している。
傾向としては、酒を飲み、タバコを吸う女性が増えつつあるが、(歓迎送別会などは別にして)やはり、女性は仲間に入りにくかったり、そもそも誘われないことが多いように思う。
仮に、そうしたネットワークの女性参加者が同期で出世頭にでもなろうものなら、一夜にして男性からの嫉妬の対象にされる。「かわいがり」と称して、社内の無理難題を押し付けられ、お手並み拝見とされるのだ。
筆者の周辺にも子供二人をかかえ、500人抜きの抜擢で昇進して、仕事量も同期の3倍を抱える(かわいがりで、抱えさせられたとも言えるのだが)優秀な若手女性がいる。しかし、ここが問題なのだが、職能給ではなく年齢格差給なので、前向きキャラの女性なのに、最近さすがにモチベーション維持が覚束なくなっている。はっきり言って見るに忍びない。

話は飛ぶが、国際経済学の貿易理論では「比較優位の原則」がある。先進国は比較優位を持つ資本・技術集約型の産業に特化し、一次産業などは発展途上国に譲ることが貿易による互恵関係の基本なのだ。TPPは、比較劣位の産業を手放すことの痛みへの対処に難儀している例だ。
夫婦も、それぞれの比較優位を持つ分野に分業体制を敷く時代。企業の雇用体系もTPP同様に既得権放棄の痛みと戦わねばならぬ。

さて、そんなわけで、グローバル・ママ・ネットワークと日経のコラボでママさん向け経済・ゴールド・セミナーやることになりました。初の試みです。↓
http://global-moms.iwcj.org/parenting/20120715.html

2012年