豊島逸夫の手帖

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スイス・バブルの兆し 南欧逃避マネーで

2012年6月29日

筆者はスイス銀行に12年間、外為貴金属ディーラーとして勤務していたので、チューリッヒのスイス人元同僚たちとは、未だに「同期のソーシャル・メディア・ネットワーク」で密接に繋がっている。
最近、そこでの話題は、南欧諸国からの逃避マネーの動き。
典型的な例が、金の販売量だ。ワールド・ゴールド・カウンシルの需給四季報の最新のデータが、2012年1-3月期まで出ているので、年度別にスイスの年間金需要量を以下に纏めてみた。
2009年度 70.7トン
2010年度 106.9トン
2011年度 108.2トン
欧州債務危機悪化とともに、明らかにスイス国内での金販売量が増加している。筆者の実体験から言えることだが、スイス国内の金販売の多くは非居住者による購入だ。
更に、逃避マネーは、実物資産の代表格とも言える不動産にも流れている。最近、チューリッヒでは、億ションが建設され、売れ行きも好調。購入者に南欧からの富裕層が目立つという。
また、ユーロ紙幣のタンス預金を自家用車に積み込み、スイスに入国する例も多いとのこと。
筆者の経験でも、アテネーフランクフルト便が満席の事が多く、機内には、富裕層と思しきギリシャ人の姿があった。おそらく、フランクフルトからチューリッヒに乗り継ぐのであろう。

スイスは欧州の真っただ中に位置するので、ユーロに非加盟とはいえ、欧州経済危機の影響をまともに受けている。看板の金融業もスイス大手銀行の経営は苦しい。UBSの米国での脱税ほう助疑惑などで、スイスの銀行も顧客情報の開示を迫られ、「租税回避地」としての差別化も難しくなった。それでも、国内に悲壮感は薄い。あえてユーロに加盟せず、独自の通貨"スイス・フラン"を維持したことが、ユーロ危機から遮断された状態をもたらし、南欧からの富裕層マネーを取り込むことが出来たとも言えよう。
なお、スイス・フランと並んで、円勘定の口座設定も増加傾向とのことだ。

さて、金価格はユーロ安・ドル高、原油安の影響を受け、EU首脳会議の行方も不透明なのでリスク回避の売りも重なり、1550ドル台まで下落。筆者の相場観は6月22日付け「個人でもプロに勝てる金市場」に述べたことと変わっていない。1600ドル台を試した後だけに、次は、1500ドルのダウンサイド(下値)を試す動きだ。

それから、昨日の日経朝刊で「中国金輸入の怪、人民銀行の買いか」との見出しで派手に記事が出た。反響が大きく、色々質問攻めにあったので、ここに筆者のコメントで活字にならなかった部分も含め、全文を記しておく。
「中国人民銀行が通関統計に出る形で表で動けば、市場では、直ぐにバレるので、国内生産量を人民銀行の勘定に移転する方法で公的金準備を増やしている。しかし、それでは量的に限界があるので、民間の金保有を促進することにより、金を国境内に囲い込むことで、国全体の金保有を増やす戦略をとっている。商業銀行に金業務を解禁したことが、その表れだ。金輸入量の急増の背景に民間の裁定取引増加があることは、現地のプロの間では常識。」

以上

2012年