豊島逸夫の手帖

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スペイン・イタリアの粘り勝ち

2012年7月2日

サッカー欧州選手権では、イタリアとスペインが勝ち残り。その決勝戦を前に開催されたEU首脳会議では、イタリアとスペインの見事な連携プレーとフランスの絶妙なアシストがドイツを押し切った。
深夜までもつれ長引いたEU首脳会議。午後11時を過ぎ、ロスタイムに入ってから異変は起きた。今回の首脳会議の目玉とも言えた「1200億ユーロの成長協定」の採決寸前に、イタリアのモンティ首相とスペインのラホイ首相が待ったをかけたのだ。「急騰する国債利回りを安定化させるサポート策なしでは、成長協定の採決にも参加できない」。
土壇場で会議分裂か、妥協か。瀬戸際の選択を迫られたメルケル首は当惑を隠せず。会議は水入りに入り、午前1時に再開。ロスタイム後の延長戦は3時間にも及び、結局、メルケル首相側が譲歩した。これまでドイツの負担増を懸念して、「追加的緊縮の条件つきでなければ認められない」としていた南欧支援を無条件で飲んだのだ。具体的には、ESMなどの欧州救済資金プールを直接スペイン・イタリア国債買い支えに使うこと、そして、スペイン・イタリア政府を経由せず直接銀行への資金注入を認めること。この二つの措置を緊縮条件の縛り無しで受け入れたのだ。但し、域内の銀行を共同で監督する「銀行同盟」の創設という条件だけはドイツ側も最後まで譲らず。メルケル首相のメンツも立てた妥協案とも言えた。ドイツ連邦議会とドイツ国民に向けては「スペインの銀行に直接カネを入れることはやむを得ないが、その銀行の監督は厳正に行う。独国民の税金をむやみに使うことはない。」という弁明が出来るからだ。
事実、帰国後早々に、その旨の結果報告を独連邦議会で行い、議員も不満顔ながらも可決に同意した。しかし、合意内容は、国家の財政主権に抵触する恐れありとのことで、強力な決定力を持つ独憲法裁判所の最終裁定を仰ぐことになった。未だ、延長戦の末、土壇場のちゃぶ台返しの可能性も否定できない情勢だ。

一方、モンティ・イタリア首相は、サッカー欧州選手権準決勝でも番狂わせでドイツを下し、EU首脳会議でも土壇場でイタリア・ペースに持ち込み、まさに「してやったり」と言わんばかりの満面の笑顔。
ラホイ・スペイン首相も「これで緊縮の条件無しで欧州救済資金にアクセスできる。」と「屈辱なき支援」を取り付けたことで勝利宣言。
今日早朝のサッカー欧州選手権決勝ではスペインが圧勝したが、EU首脳会議ではモンティ・イタリア首相の作戦勝ちを認める論調が目立つ。

筆者が一番注目したことは、オランド新仏大統領の絶妙なアシスト。
首脳会議前夜にはパリでメルケル首相と直接会談。共同記者会見では笑顔のツーショットで独仏枢軸の結束を演出。ところが、首脳会議当日の会場内ではメルケル首相との接触を極力避け、敢えてよそよそしく振る舞って見せたのだ。
そして、土壇場のモンティ首相の動議には理解を示す行動。実質的には、イタリア・スペイン側につき、対ドイツの共同戦線に加担する結果となった。
サルコジ前大統領時代は、殊更に独仏枢軸主導が強調され、相対的発言権低下に不満を持つ他国の反発も招いた。しかし、メルケル首相のパートナーがオランド氏となるやバランス・オブ・パワーの潮目が変わったようだ。独仏枢軸主導の時代から、域内の重心分散の時代へ。ケース・バイ・ケースで、域内の参加国グループの合従連衡も変遷する状況になりそう。
なお、オランド氏も最後にメルケル首相へ気遣いも見せている。会議終了後の記者会見では「今回の首脳会議について、どの国が勝ったとか負けたとかの問題ではない。欧州の勝利だ。」と締めくくったのだ。

さて、注目されるマーケットの反応だが、(筆者を含め)会議の結果にタカをくくっていたところ、思わぬポジティブな成り行き。「首脳会議に新鮮味なし」と見て、株も商品もショート(空売りポジション)していた投機筋は慌てて買戻しに走ることに。特にニューヨーク市場は、今週7月4日は米国独立記念日ゆえ実質休日モードに入るので、ポジションの身辺整理が目立った。
今回の会議合意内容については、骨格が決まっただけで、肉付けはこれから。まだまだ積極的に新規買いを入れられる市場環境ではない。
リリーフ・ラリー(訳せば安堵相場ということになろうか)という表現が市場心理を映している。問題は、買戻し一巡後の持続性だ。


さて、ここのところ週刊誌取材記事に色々出ているので以下にお知らせ。

今日発売 オール投資(東洋経済社)インタビュー(金価格見通し)
週刊朝日 7月6日号 「ギリシャどころじゃないスペイン」
(筆者のギリシャ体験談)
週刊文春 7月5日号  対談3ページほど。金融商品について。
週刊エコノミスト 7月3日号 特集「円高株安」
月刊日経マネー 8月号 豊島逸夫の世界経済の深層真理
「被災地復興バブル 分配の非効率を実感」

それから、昨年出した筆者の日経ムック本が好評だったので、今年も2012年バージョンを出すことになり制作進行中。
今年の特徴はアラサー、アラフォー、更に同世代ママさん向けのコンテンツ主体になっていること。採録のゴールド・セミナーもなんとママさん向けセミナー。投資信託関連の座談会は今や主婦が押しかける「新大久保イケメン通り」(その存在を知ってるかな??)で決行、などなど、楽しみながらやっています。8月には、このムック用に再びシンガポールのジム・ロジャース邸を訪問、対談の予定。その他、筆者のギリシャ・中国現地レポートとか、「男の嫉妬と戦う有能な女性たち」と六本木虎屋で対談も。雑誌編集陣も全員女性です。男性読者が読んでも面白いよ。お楽しみに。

2012年