豊島逸夫の手帖

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ギリシャ、ユーロ離脱すれば金はどうなる

2012年5月30日

仮にギリシャがユーロを離脱。スペイン・イタリアへの債務不安伝染懸念シナリオが現実となった場合のマーケットの反応だが、金はまず売られよう。その時点では強度のクレジット・クランチ(信用収縮)が欧州域外銀行群にまで拡散し、「金よりキャッシュ」の流れで金も「流動性捻出」のため売り込まれよう。
しかし、欧州債務危機の問題は流動性(liquidity)と債務返済能力(solvency)の問題がある。流動性枯渇で金市場も換金売りのラッシュに見舞われても、ECB(欧州中央銀行)がLTRO強化などの救済策に出るだろうから、金の下げも一過性と見られる。
一方、ソルベンシーの問題は一過性とはいえない。構造改革が必要な根源的問題だ。そこで金は短期的に売られたあと、中長期的には「安全性への逃避」が(急激ではないが)ジワジワと買いとなり、進行するだろう。これこそ本欄にて詳述し、リーマンショック後のケーススタディーとして吟味したことである。
従って、結論は、ユーロ安の反対取引の結果としてのドル高も重しとなり、(その時点での悪化状況にもよるが)1400ドル台から瞬間的には1300ドル台をつけても驚かない。でも、そこは中国・インド・公的金準備増強国にとっては願ってもない買い場となろう。(かくいう筆者も買うであろう。)
基本的に金は「安全性への逃避」で買われる。リスクオフで売られるときは、長期的に見て例外的状況と認識すべきだ。
なお、超短期的には、ギリシャユーロ離脱直後は、投機筋による「噂で売ってニュースで買う」展開も予想される。既に、ユーロ離脱を見込んで先売りに走っている投機筋が、いざ、現実のニュースともなれば、一斉に利益確定の買い手仕舞いに動くケースである。実際に金市場ではイラク開戦時に金が暴落している。このときは「噂で買ってニュースで売る」の展開であった。開戦必至と見た中東筋が半年前からNY金先物を静かに買い増し、いざ開戦のニュースが流れた時点で一斉に利益確定売りに走った。そこで、「有事の金は買い」と業者に踊らされ、高値掴みしたのが、個人投資家であった。プロにとっては「有事の金は売り」なのだ。
なお、イラク戦争直前に金を買い増していた友人の中東系ディーラー。翌朝、メディア・インタビューで、しゃぁしゃぁと「有事の金は買いに決まってるじゃないですか」と自らの相場観を語っていたものだ。したたかである。これこそポジション・トーク。
かくいう筆者もスイス銀行時代は、したたかにポジション・トークしていたことを告白懺悔致します(笑)。

なお、今日書いたことは、あくまで、ユーロ離脱という極限のシナリオである。それが起こらなければ、さほど下がらず(日米欧中金融緩和の流れで)再上昇軌道に乗ってゆくだろう。

2012年