2012年10月12日
「国家再生仕事人」の集団であるIMF。重債務国を救済するが、条件として容赦ない「緊縮遵守」を課する。
その厳しさを、韓国はアジア経済危機の時に思い知らされた。
筆者が先日取材で、俗称「新大久保イケメン通り」を訪れたときのこと。女性向け美容ハンドマッサージ店で働くイケメンKボーイズたちと対話する機会があった。皆とても真面目で良い性格の男子たちで色々話が弾んだのだが、特に印象に残った発言が「アジア経済危機の時、自分は小学生だったけど、IMFが入った後は、うちのおかずが減ったよ。」
たしかに、韓国では反日ほどではないが、反IMF感情が未だに強く残る。日本の時代劇に出てくる「非情に取り立てる両替商」みたいなイメージであろうか。
なにかとIMFが「憎まれ役」ではある。
ギリシャ救済についても、ラガルド専務理事は「We are not in the negotiation or renegotiation mode at all!」(ギリシャの緊縮条件について交渉、或いは再交渉の余地は全く無い)と明言していた。
それが今週のIMF総会では、「heavily frontloading Greece with austerity measures too fast could undermine Greece's reform program and recovery」(先を争ってギリシャへ緊縮を前倒しで課することは、拙速がギリシャの構造改革と経済回復に悪影響を与える結果になりかねない)と、一転、緊縮条件達成期限延長に柔軟に妥協する姿勢を見せた。フロントローディングという単語は、米国大統領選挙で各州が競って予備選挙の日程を前倒しする傾向を指す用語だ。
「It is sometimes better to have a bit more time」(時には多少の時間も必要)とも語っている。
ラガルド専務理事も、ここでギリシャがこければ「共倒れ」しかねないリスクに対する懸念を、IMF総会参加者から強く感じた結果であろうか。
筆者はかなり意外感を持って受け止めたが、この発言が東京発の外電で欧米市場に流れるや、マーケットの材料としても注目されることになった。非情な「国家再生仕事人集団」トップの軟化発言は、ギリシャへの「執行猶予」ということで、当面の欧州債務危機感後退=リスクオンと解釈されたわけだ。
そこで、現地アテネの反応が気になり、これまでの訪問で知り合ったギリシャ人たちに連絡をとってヒヤリングしてみたのだが、総じて、これまでの反IMF感情からか「してやったり」というニュアンスが伝わってきた。第二次ギリシャ救済合意時の現地紙の「ねばり勝ち」という見出しを思い出した。
そもそも借金も身の丈を遥かに越すほどに膨張すると、「借りた者勝ち」の如き様相になるもの。ギリシャの元経済財務副大臣が「The Greek debt is not repayable at this point」(今の時点でギリシャ債務返済は不可能)「The economy is too weak to afford a 300 billion euro-plus debt」(ギリシャ経済は弱体化しており3000億ユーロを超す債務を返済する余力はない)と言い切る始末だ。
こういう元閣僚の本音発言を、ドイツの納税者がどのように受け止め、選挙時に反応するか、想像に難くない。
それにしても、IMFレポートにも明記された日本の債務問題への懸念も気になるところだ。日本の平均的家庭の「おかずの数」は質量ともにアジアの他国より遥かに高く多い。アジア地図の中の一島国だけが、突出しておかずが多い現象が果たしていつまで続くものなのか。アジア出張も多い筆者が各地で常に感じることは、領土問題の心理的背景でもあるが、「敗戦国なのに」という隣国の友人たちの心の底に透けて見える「やりきれなさ」というか、「漠としたやっかみ感」のような感情だ。日本のおかずが全くなくなることは考えられないが、品数がこれからどれほど減るのか。少なくとも、ミシュランの星ばかり追う余裕はなくなり、シンプルに旬の素材を料理したおかず少々で、つつましく一家団欒の夕餉を囲む傾向が強まることになろう。経済の縮小均衡点を模索する過程は、日本経済にダイエットを強いる。出来ればIMFのお世話にはなりたくない、と思う。
なお、金価格は新興国利下げ傾向も重なり、リスクオンで買われる局面もあったが、スペイン情勢不透明感もあり、1800ドル前で、依然値固めモード。なお、リスクオン相場になると、市場の流動性が少ないプラチナのほうが、より反応が強く買われる傾向がある。