豊島逸夫の手帖

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米国の財政の崖 日本の領土問題の外交カードになる可能性も

2012年11月8日

オバマ大統領の二期目ハネムーンは、10時間しか続かなかった。
7日アジア・欧州時間帯では、目先の不透明感が除去されたことで、市場もリスクオンになった。しかし、ニューヨーク時間になるや、一転、財政の崖と欧州債務不安によるリスクオフ相場に。株急落、金以外の原油など商品も軒並み下落。マネーは米国債へ逃避。

特に問題は、米国の「財政の崖」だ。
この問題を俯瞰すれば、結局は先送りを繰り返してきたリーマンショック清算過程の最終段階である。
サブプライムから負の連鎖で膨張した民間債務というリスクが、ソブリン(公的部門)に移転した。その結果、公的債務が膨張。その返済に米国債を増発。その米国の借金証文を中国と日本が引き受けるという構造が、現在に至るまで続いてきた。
今や、米国経済に対して、数本の点滴による生命維持装置で延命治療が図られている。量的緩和による流動性供給という最大の点滴。そして、減税・財政出動という点滴。
前者の点滴は、金融病棟のドクター・バーナンキの治療方針により、投入量が無期限に増量されてゆく。
後者の点滴は、来月12月には減税という点滴が切れ、来年1月には歳出という点滴も強制的にカットせねばならぬ。
まだ、基礎体力が回復していない患者ゆえ、大量の点滴をいきなり抜くと、身体がショック症状を起こすは必定。
そこで、今後の治療方針としては、まずは、3か月程度(来年3月まで)点滴を続ける。或いは、段階的に点滴を外してゆく。但し、許容できる点滴の最大投入量が決まっているので、その上限を引き上げることで医師団の了解を得ねばならぬ。
その医師団の見解が、今回の議会選挙で真っ二つに割れている「ねじれ」状態の継続が確認されてしまった。
こうなると、この病院の医療ランキングが格付け機関により格下げされる事態が考えられる。

この切迫した状況を見守る周囲のマーケットは、まずニューヨーク株式急落のカタチで、オバマ大統領へ不信任投票を叩きつけた。更に、金価格は投票日前までは1670ドル台まで下がっていたが、オバマ再選決定後は1710ドル台に切り上がっている。
そもそも金を買うという投資行動は、米ドルに対する不信任投票だ。
オバマを選んだ米国選挙民の民意とグローバル・マーケットの「民意」が乖離している。このような市場環境下では、マーケットの投じる不信任投票が繰り返されることになろう。

問題の本質は「身の丈を超えた借金の返済」。コツコツ働いて返済できる段階は過ぎた。
増税・歳出削減は国民に痛みを強いるので、政治的に難しい。となれば、国民が直接的痛みを直ぐには感じず、カネまわりが良くなったかのようなマネーイリュージョンで、政治的摩擦が最も少ない「通貨供給増」による実質的債務の減価が最も現実的な方策となろう。「インフレ」という副作用も、金融当局が目指す目標物価上昇率ギリギリの「低血圧」経済では、切迫感が薄い。
ここに財政の崖を乗り越える現実的シナリオを垣間見る。
但し、このシナリオでは、米国民の痛みは弱まるが、米国債を1兆ドル以上保有している日本と中国が保有米国債の減価という痛みを代わって感じることになる。

なお、見方を変えれば、債権国としての日本の米国への「貸し」は、領土問題で外交カードが少ない日本にとって、米国の積極介入を促す切り札の一つにはなりうるかもしれない。
本欄9月19日「米国債に流動性への逃避現象鮮明」にて、中国が米国債保有を減らす傾向の中で、日本が増やしている結果、早晩、日本が最大の米国債保有国になる可能性について書いた。
日本人も日本政府も、今後は「したたかさ」を発揮せねばならぬ。

さて、私の仕事の幅が広がり、「離婚評論家」になったという話(笑)。↓
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20121106-00000012-pseven-soci (現在公開されていません)

まぁ、バツイチゆえ体験を元にコメントできるのは確かだけどね。

2012年