豊島逸夫の手帖

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消費増税の恩恵を受ける金

2012年7月3日

金の店頭買取価格は「税込買取価格」と表示される。買取価格が仮に1g 4,000円とすれば、現行の消費税5%が上乗せされて4,200円で買い取られるのだ。その消費税が8%に上がれば、税込買取価格の上乗せ分もスライドして上がり4,320円となる。その差は1gあたり120円。
いま5%の消費税を払って購入して、8%になったら売れば、その分オトクということにはなるのだが、これは、あくまで金価格が同じ水準という仮定の上での話だ。例えば金価格が3,800円に下がれば、8%上乗せされても、税込買取価格は4,104円に下がってしまう。
更に、店頭金価格には、販売価格と買取価格の間に値差(スプレッド)がある。海外旅行用にドル札を買うときの売り価格と買い価格の開きと同じ仕組みだ。金の小売スプレッドは1gあたり80円(消費税抜)ほど。業者間市場の実勢価格(中値)は、販売価格と買取価格の間にあるので、80円の中の一定部分が実質的手数料となる。この分も割り引いて考える必要がある。
それから、金地金でも小型と言われる100g(現在40万円以上)には、購入時と買取時に別途手数料が上乗せされる。
(*三菱マテリアルの場合(7/3現在)
購入時:100gバー 1本あたり5,250円(消費税込)
売却時 : 100g以上500g未満1件あたり 10,500円(消費税込))
故に、消費増税の恩恵を受けるのは、現実的には一個 数百万円単位の500gバーと1Kgバーとなろう。
この話は、「消費増税による儲け話」というより、まとまった金地金売買の場合に将来的に手数料が戻ってくる程度の感覚で受け止めておいたほうが良かろう。
それでも長期的に消費税が欧州並みの水準にまで上がる可能性を考慮すれば、決して無視できる額ではない。
なお、金地金は、不動産と異なり固定資産税が一切かからない。そこで、相続資産としては筆者もお奨めできる。更に、小分けできるので、不動産相続に見られる醜い争いが起きにくい。そこで、一個 十万円以上の金貨を相続用にまとめ買いする富裕層も見受けられる。いつでも売れるという流動性もメリット。
但し、不動産のように賃貸マンション建ててインカムを得ることは出来ない。金は、何も生み出すことがない「不毛の資産」ゆえ、あくまでポートフォリオの中ではリスク分散の「脇役」なのだ。投資というのはおカネに働いてもらって利息、配当などを稼ぐことが本来の目的ゆえ、主役は株・債券である。
将棋の中原元名人が、金についての座談会で、語ったことを引用して本稿を締めよう。
「将棋の駒の金の役割は王将を守ること。その金をあれこれ動かすのはヘボ将棋」なのだそうである。言い得て妙。

2012年