豊島逸夫の手帖

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銀バブル崩壊の兆し

2012年12月21日

「貴金属の下げが止まらない。特に銀は今週に入り約8%急落して30ドルの大台を割り込んだ。金も売られ1640ドル台をつけているが、下げ幅は約3%で「高値調整」の範囲内である。
銀は「Hi‐Beta gold」=β値(市場感応度)の高いゴールドなどと呼ばれるほどボラティリティーが高い。特に、近年は銀ETFの登場で投資マネー流出入の影響が更に強まった。その残高は、工業用需要を凌ぐ規模まで膨張している。
銀価格の推移を俯瞰すると、2001年には4ドルで、貴金属ならぬ卑金属とまで揶揄されたが、2005年には7ドル、2008年には14ドルと静かに価格上昇を続け、2011年には50ドル近くまで暴騰。その間、総需要は20%しか増えていない。従って直近の30ドル台という価格でもいまだ割高という見方も多かった。
しかし、銀は投機対象として米国人に特に人気がある。金統制時代が長かったためであろう。ゆえに、銀価格は米国人投資家のリスク許容度を計る物差しにもなる。
今回は、やはり、米国人投資家が「財政の崖」の材料を不安視。クリスマス休暇前に一斉に売り手仕舞いに走った。典型的な「劇場のシンドローム」現象である。(観客の1人が火事だと叫び、全員が非常出口に殺到すること。)

なお、金価格は12月に入り、4回にわたり、ファンドの大量手仕舞い売りに見舞われた。いずれも超高速取引なので数分で30ドル前後急落し、直後に一般投資家のストップ・ロスの売り注文が自動的に発動され、下げに拍車を掛ける結果になっている。
更に、2013年には米国で金投資に関わるキャピタルゲインへの増税も予想されることが、年内の売り手仕舞いを加速させている。
価格動向は200日移動平均線を割り込んだことで、短期的相場のカタチは悪い。下値模索の状況だ。
しかし、1600ドル台では経済減速と言えど、文化的に金選好度が高い中国・インドの現物買いが活発化する。
先物主導の下げはいずれ一巡する。そこで新興国の民間そして公的部門の現物買いが「買いっぱなし」ゆえ、地味だがボディーブローの如く相場には効いてくる。
2012年も中国・インドの二か国で年間金需要が1500トン以上見込まれる。年間金生産量が2822トン(2011年)の規模であるから、その半分以上をこの二か国が買い占めることになる。
但し、インドは経常収支赤字是正のため「主要輸入品目」である金への輸入課税を4%に引き上げたので需要は下落傾向。これが1700ドル台での売り材料であった。対して、中国は経済減速にも関わらず年間需要は前年なみを維持している。

■ 年間金需要(2012年9月時点での統計を元に作成)
2010/10-2011/9 2011/10-2012/9   増減%
インド 1,099.0トン 793.1 トン △27.8%
中国 770.6トン 773.2トン 0.3%


昨年はインド、中国ともに1700ドル台で活発に買いを入れていたが、今年は1500-1600ドル台に買いゾーンを引き下げていることは確かだ。これが経済減速の影響であろう。
なお、リーマンショック前は年間500トン程度、金を売却していた公的部門(中央銀行)が2012年は、韓国、トルコなど新興国中銀の買いで493トンの買い越しを記録していることも下値支えの要因となっている。
総じて、リスク・オフ、リスク・オンのセンチメントの振れで短期的には先物主導の乱高下を繰り返すが、徐々に高値圏での値固めが進行している。(なお、最近は、ドルとの逆相関が薄まり、リスク許容度との相関のほうが強まる傾向がある。)
本格的下げ局面は、2014年か。世界経済に回復の兆しが顕著となり、日米欧「量的緩和」競争のトンネルの先が見えてくる時期であろう。

2012年