豊島逸夫の手帖

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4月危機説に現実味

2012年4月11日

本欄4月2日付け「4月危機説の根拠」に書いたシナリオが現実化してきた。
昨晩のニューヨーク株式市場は今年最大の下げ。
スペインの雨がニューヨークに降った、とは某市場関係者の呟き。ミュージカル「マイ・フェア・レディー」のなかで、花売り娘イライザが言語学者ヒギンズからキングズ・イングリッシュの猛特訓を受けたときの言葉、
The rain in Spain stays mainly in the plain.
「スペインの雨は、おもに平野に降る。」
にひっかけたもの。
スペイン10年もの国債の利回りは、警戒水域6%台に急接近中。
昨晩は、スペイン中銀総裁オルドネス氏が「スペイン商業銀行への資本増強の必要性」について言及したことも、市場の不安感を煽る結果に。
というのは、欧州経済危機の中でのスペインの特徴は、三大銀行の資産総額がGDPの200%に匹敵する規模であること。その銀行株が、この1年で40%以上下落している。
この規模の金融機関への公的資金投入となると、カネはどこから出るかといえば、最後はドイツ頼み。
ギリシャ、ポルトガル、アイルランドの場合は「周辺国」扱いであったが、スペインとなると欧州内コアの国である。
スペイン、イタリアへの危機延焼を防ぐ「防火壁」たるEFSF、そしてEMSは、一夜にして構築できる話ではない。果たして間に合うのか。
シトシト降るスペインの雨の集中豪雨化を市場は憂う。
VIX(恐怖指数)も急騰。3月7日以来の20突破。
米国債10年ものも利回り2%を割り込み、1.988%と、これも3月7日以来の低水準。
金価格は急騰して、当面の相場の頭とされた1650ドルをあっさり突破。本稿執筆時点(日本時間4月11日朝7時)では、1660ドルで推移している。
NY時間の正午を挟んで、VIXが安値18.62から、一気に21.06まで急騰。それに反応して、金価格も安値1635ドルから、一気に1664ドルまで急騰している。明らかにコンピューター・プログラムが即、反応。買いのシグナルが発動されたことが窺える。
絵に描いたような「安全性への逃避」現象であった。

さて、件の4月危機だが、想定通り、震源は欧州。
第一幕はスペイン。
そして4月22日にはフランス大統領選挙。現職サルコジ氏と対抗馬オランド氏が接戦を演じている。オランド氏は反メルケルを全面に掲げ、フランス国民の漠とした「ドイツ主導からドイツ支配」への警戒感に訴える。欧州危機救済側の独仏枢軸に亀裂が入れば、そこで第二幕。
続く第三幕が、5月7日まで繰り広げられるギリシャ総選挙。「EUの緊縮押し付け」拒否をマニフェストに掲げる野党の人気が急上昇中。
彼らも参加型の新政権となれば、レーム・ダックの現首相が合意した第二次ギリシャ救済案は、振出しに戻る可能性もちらつく。
最新のアテネ情報で印象的な出来事は「ゴミ箱をあさるより尊厳死を選ぶ」と叫び焼身自殺した一市民の悲劇。第二次救済で合意された緊縮強化が実行できるはずもない。最低賃金2割カットと言われても、月500ユーロ(約5万円)では暮らせない。アテネのスーパーマーケットに買い物に行ったとき、レジの傍に、「購入した袋入りの野菜の一部をこのカートに」という市民救済運動に遭遇したことを思い出す。
そして、4月危機のもう一つの震源地がFRB。
雇用統計ショックから抜け切れないニューヨーク市場からは、「バーナンキさん、手遅れにならないうちに、なんとか言って! QE3のQの字だけでもいいから!」と、悲痛な叫びが聞こえてくる。
果たしてバーナンキ・プット(株が下がればバーナンキが量的緩和で下支えしてくれる、という意味で実質的な株価プット・オプション同様の効果を持つこと)は、未だ生きているのか。
市場のおねだりをFRBが受け入れれば、欧州の「防火壁」構築完成に優るとも劣らぬ効果が発揮されることになろうが・・・。

2012年