豊島逸夫の手帖

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中国が密かに注目する二宮尊徳

2012年11月9日

筆者は、中国の金市場創設以来13年間、アドバイザリーとして密接に同国と関わってきた。金という特殊ルートを通じて、北京の奥の院への出入りも尖閣問題先鋭化前までは許されてきた。
そこでの見聞の一つが、中国の格差是正のための思想として、中国知識階級の間で"二宮尊徳"が注目されているということであった。彼に関する論文が北京大学から出回っていた。
対日関係悪化後は、全く表には出ないが、その思想の影響は残る。

なぜ、二宮尊徳なのか。
今回の中国共産党大会では、「腐敗と格差」是正が次期指導部の引き継ぐ「宿題」である。
特に「四大格差」の存在が大きな問題だ。
中国の東部と西部の間の「東西格差」、都市と農村の「城郷格差」、国営企業と私営企業の「業種間格差」。電力、電信、金融、保険、水道ガス、タバコなどの国営企業の職員は全国職員数の8%に過ぎないが、全国職員の給料総額の55%を占めるという。
そして、「貧富格差」。世界銀行の統計によれば、中国では1%の家庭が41.4%の資産を保有している。
開放化の過程で、中国社会では「三奴」(カード、部屋、車の奴)の傾向が蔓延しつつあることが、この四大格差に対する不満を増幅させ、社会不安の温床ともなっている。
この「四大格差」を是正し、仁愛互助、公平共栄の人間らしい社会の構築を追求する「ヒューマン・エコノミー」の実現のために、二宮尊徳の「推譲倫理」思想がひとつの参考にされているのだ。
「推譲倫理」は、私利私欲を完全に否定するのではなく、「一粒の米を推し譲ってそれを撒けば、すなわち百倍の利を生ずる」という論理だ。
これを現在の中国に当てはめれば、東部地区が西部地区に、高利潤の業種が低利潤の業種に、裕福な人が貧乏な人に利益を推し譲ることによって、格差是正のヒューマン・エコノミーに資するということになる。
中国の経済成長重視は、人間性の欠如、道徳の崩壊、拝金主義の横行というモラル危機を招いた。そこで、知識層が、日本人"二宮尊徳"の「恩に感じ、徳に報ゆる」という「報徳思想」に着目したことは興味深い。

現実問題としては共産党指導部の高官自らが利益誘導を図り、国営企業は配当せず経営者が個人的蓄財に走っている。共産党内の権力闘争により、その実態の暴露合戦の醜態も演じられているが、既得権者たち「抵抗勢力」の結束も固い。
その中で、次の10年の戦略を13億人の人民に徹底させるための「指導論理」には何らかの思想が不可欠だ。
日中関係冷戦時代突入の中で、日本発の思想など「論外」であるが、中国流の「ネーミングとパッケージを変えてメイド・イン・チャイナ」に仕立て上げる得意技で、カタチを変えて取り入れられる可能性はあると思う。

さて、ガラッと話は変わって、金ブログとしては、金価格も論ぜねばなるまい(笑)。
金相場は、米国大統領選挙投票前までは1670ドル台まで沈んでいたが、選挙日から俄かに反騰。その後も続騰して、8日のニューヨーク市場でも1730ドル台まで上げて引けた。
投票日前はオバマ・ロムニー接戦報道が流れ、ロムニー勝利の場合のバーナンキ更迭論なども囁かれ、金価格の推進力であるQEの継続性も危ぶまれた。
しかし、オバマ勝利で、その懸念が払拭された。
しかも株式の下げ材料となっている「財政の崖」も、景気後退=QE長期化と解釈され金には上げ材料である。
「国家債務上限」引き上げの可能性も、公的債務膨張による米国債格下げの予測を産み、これまた、金価格上昇要因となっている。
アセットクラスの中で、オバマ勝利の恩恵を最も強く受けているのが、「金」であろう。
内部要因を見ても、1670ドル台で下値が確認され、その下落過程でweak long(浮動株主的な買い手)はふるい落とされた。ニューヨーク金先物市場での買い玉は、下げの過程でかなり手仕舞われており、地合いは軽く新規買いが入りやすい。
但し、上げても1800ドルの壁は厚い。
中国の経済減速、欧州債務危機の中で流動性選好の売り、11月に決算期を迎えるヘッジファンドの決算対策売りなどが相場の頭を抑える。
短期的乱高下を繰り返しつつ、徐々に値位置を切り上げる展開となりそうだ。

なお、日経ビジネスオンライン 豊島逸夫の「金脈探訪」
欧州現地ルポ第四回「日本はリスボン大震災後の失われた250年に学べ」↓

http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20121017/238184/?bv_ru
(或いは「日経ビジネス」で検索して入るか)

それから、今日の日経夕刊「商品ウオッチ」に金価格の話が出る予定。

週末から火曜にかけて、香港でLBMA貴金属国際会議参加。といっても会場で通り一遍の話聞くより、会場外での本音の「密談」のほうが目的だけどね(笑)。
豊島逸夫事務所の中国関連業務のカウンターパーティーと8月25日以来、香港の地で再会できる。
インドにも仕事が出来そうで、今月後半はドバイ出張の予定もあり。
今や、金の世界の出張はニューヨーク・ロンドン行っても「業界内のキズのなめあい」みたいでつまらない。新興国で仕事するのが最もエキサイティング!
貴金属業務から昨日本欄で紹介した「離活」業務まで、仕事の領域が急速に拡大しておりますww
そのうちに「『金市場動向は上げと豊島逸夫氏(離婚評論家)は見ている』などと報道されるかもね。」という冗談まで、ツイッターでは流れています。

2012年