2012年3月19日
VIX(ボラティリティー・インデックス、別名恐怖指数)とは、米国S&P500株価指数のオプション取引のボラティリティー(価格変動率)を元に算出された指数で、市場の不安感を示す数値としてしばしば引用される。
リーマン・ショック時には80を超え、ギリシャ危機勃発時には40を突破したが、現在では14台。先週金曜日も13.66-15.24のレンジで推移した。5年ぶりの低水準である。
ギリシャ危機感後退、米国雇用統計改善などマーケットのリスク鎮静化を象徴する数値と解釈されるが、米国雇用、住宅問題や欧州債務危機が根本的な解決に向かっているとまともに考える人は少ない。「嵐の前の静けさ」かと深読みする向きも多い。
VIX以外にも、市場の楽観論を示唆する数値として、米国債利回り上昇と金価格下落が挙げられる。
両方ともに所謂「安全資産」の代表格で、マーケットのリスクが顕在化すると米国債が買われるので、その利回りは低下する。つい最近まで10年債で2%を割り込んでいたのが、ここにきて2.3%にまで上昇してきた。つまり米国債市場からマネーが流出してリスク資産に向かっているわけだ。
金は「安全資産」として買う人もいれば、「リスクを取る資産」として買う人もいる。足元では、安全資産として金市場に逃避していたマネーが株へ「里帰り」している状況だ。
外為市場に於けるドル高傾向も、これまでの「安全通貨」として逃避マネーの受け皿になったことに由来するドル高から、米国マクロ経済指標好転を好感してのドル買いへと「ドル高の質」が変わってきた。
問題は、VIX、米国債、外為市場、金市場の変調が一過性か持続的な現象かと言うことであろう。
日本風に言えば「のど元過ぎれば熱さ忘れる」というが、市場関係者も個人投資家も本音は「熱さを忘れたい」のではなかろうか。
でも「忘れられない」のが実態だと思う。それほどに満身創痍の「手負いの投資家」の心の後遺症は深い。
この心の傷を、時間をかけて癒しつつ、2013年後半から2014年頃を目途に晴れて「退院の日」を迎えるのではなかろうか。但し、退院といっても、いきなり外気に晒されては、「病状のぶり返し」リスクもある。VIXを糖尿病予備軍の血糖値とすれば、ちょっと羽目外して食べ過ぎれば、忽ち急上昇するは必定だ。
筆者がギリシャで見た実態は、この債務危機が民族的DNAに根差す構造的問題ということであった。米国でも住宅差し押さえの実態を見るに不動産市場の本格的回復は2015年ごろではないか。
日本経済で言えば、「円安」は「マーケットの神」が与えた干天の慈雨。75円の円高でまさに崖っぷちに立たされていた日本企業にとっては、またとない「時間稼ぎ」のチャンスであることは間違いない。既にボディー・ブローの数々で体力を擦り減らし、その上、超円高でカウント8のダウンを喫したボクサーにとって体勢を立て直し、ファイティング・ポーズを作る最後の機会とも言えよう。このマーケットの「神」が授けてくれた円安、株高という「福音」を生かし、経営的リスクを取り、技術・商品開発への投資を積極化できるか否か。企業の努力次第である。少なくても、努力する心の余裕が出来ただけでも、今の日本経済には大変な「福音」であると感じている。
さて、昨日の朝日新聞日曜版では10ページに亘る金特集。
なお、そこで引用されている筆者の相場コメントは今回の急落直前のもの。
そして、今日発売の週刊現代「この円安、株高をプロはこう考える」特集では、為替と株について二つのコメント。そして3月後、年末の株価、ドル円「プロの予測」に数字を出しているので参照されたい。(こちらは金の記事ではない。)
なお週刊現代3月5日号でもプロ3人の徹底討論(6ページ)に参加している。↓
http://kodansha.cplaza.ne.jp/wgendai/article/120305/top_03_01.html (現在公開されていません)