2012年2月24日
3月4日東京(日経ホール)と3月25日(大阪ビジネスパーク)で日経プラスワンフォーラムが開催される。今日のトピックであるギリシャ問題の最新現地レポートも語る予定だ。↓
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さて、当面デフォルト回避で一服感が流れる日米市場に対し、欧州市場では、4月にギリシャ危機が再燃との警戒感が安堵感を上回る。昨日の株価もドイツ市場安、NY市場高と対照的な値動きだ。NY市場には「米国経済と欧州経済のデカプリング=非連動説」が声高に流れる。たしかに足元のマクロ経済データの出方を見れば、欧州リセッション、米国景況感好転の兆しの対比が際立つ。しかし、アテネとの距離が近い欧州市場のムードは慎重そのものだ。
そこで、デフォルト回避後のアテネ市民の本音を聞くと、ずばり「我々の粘り勝ち」。「所詮、レ―ム・ダックの首相が合意したこと。4月の総選挙後に新政権が再交渉」と読んでいる。つくづく痛感することだが、借金も身の丈を遥かに超えた額に膨らむと、貸し手より借り手のほうが強腰に出れるものだ。一心太助が往来で、「上等じゃないか。持ってくものがあるなら持ってきな。」と借金取りに開き直る時代劇シーンとイメージがだぶる。デフォルトで失うものが多いのは、ギリシャよりドイツなのだ。
更に、ドイツの弱みは、4月22日のフランス大統領選挙。
現職サルコジ氏、危うし。対立候補オランド氏は、反メルケルをマニュフェストに強く織り込む。「ドイツ主導からドイツ支配へのシナリオ」に対する欧州人の本質的な警戒感に民意が強く共鳴している。
そこで、メルケル首相は単身フランスに乗り込み、「仮面夫婦」と揶揄される、相方のサルコジ支持の応援演説まで買って出た。EU団結を訴えるのならまだしも、隣国の選挙に介入するなど前代未聞の行動だ。それこそ、ドイツ「支配」のシナリオを想起させるが、同時に、貸し手側ドイツの切迫した危機感も透けて見える。
フランクフルトで聞くドイツ人の本音は、「ギリシャにはいずれユーロ圏から退出してもらう。その時はマグニチュード8クラスの地震が市場をヒットするであろう。ゆえに、事前に充分な高さの津波防波堤の構築が不可欠。」イタリア・スペインへの延焼を食い止めることが出来る防火壁のことだが、その建設資金を誰が負担するのか。そもそも、総額幾らかかるのか。津波同様に経済危機も「想定外の高さ」に達するリスクがある。この防火壁構築に関して、EUの財政優等生オランダ、フィンランドが同調するか。域内内部亀裂が修復不能まで深刻化する可能性も、4月頃に予想される。
更に、EUの欧州委員会はユーロ圏の2012年実質経済成長率が、マイナス0.3%になるとの予測を発表。「年後半の回復も危機収束が前提」と釘を刺す。折角、瀬戸際でデフォルト回避に漕ぎ着けた二日後に、合意達成の高揚感に水を差すような統計を自ら発表することもなかろうに、などと感じてしまうが、事実は事実。
今回のデフォルト回避に至る最後の過程で、「極秘文書」が会議場に出回り、フィナンシャル・タイムズ紙がすっぱ抜いた。10ページほどの報告書だが、そこには、今回のギリシャ支援第二弾の規模を計算するのに使われたベース・ライン(基礎的)シナリオが、極めて脆弱と記されていた。景気後退入りして5年目のギリシャ経済のマイナス成長が、追加的緊縮政策にも関らず、来年には止まり、2014年には年率プラス2.3%に回復という、極めてバラ色の見立てに対する強い懐疑論に合意寸前の会場が揺れた。しかも、来年の成長率がマイナス1%になり、2014年の成長率もプラス1.3%にとどまると想定すると、「ギリシャが必要な資金は約2450億ユーロに膨らむ」という。結局13時間に及ぶ長丁場で合意到達に漕ぎ着けたが、数字上の辻褄合わせによるギリシャ財政赤字削減プログラムの感は否めない。
絆創膏だらけのギリシャ再建計画。自然治癒は望めない。傷口が生のまま剥がす時には、これまで以上の痛みを感じる覚悟が必要だ。
ギリシャ国会議事堂 (筆者撮影)
国会前のシンタグマ広場はデモ隊衝突の場であるが、芝生には大型犬の野良犬が目立つ。飼えなくなった主人に見放されても未だ餌にありつくようだ。この餌も切れたときがギリシャ経済の臨界点か。