豊島逸夫の手帖

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バーナンキの金本位制講義

2012年3月22日

中央銀行の長たるFRB議長が、30人ほどの学生相手のゼミナールで講義するのは異例の事だ。しかも4回に亘って。学生の書いた論文にも目を通すという。やはり元プリンストン大学教授として、学者の血が騒ぐと見える。
しかし、その本音はFRBのプレゼンス(存在感)を向上させることにあるようだ。バーナンキ流の大胆な量的緩和政策には異論も多い。敵も多いのだ。
さて、その講義の内容がメディアを通して伝わってくるが、一番見出しを取ったトピックが「金本位制」。
共和党大統領選挙候補者の一人、ロン・ポール氏が「金本位制復帰論」を唱えていることでもあり、旬の話題なのだろう。
バーナンキ氏は「金本位制」などあり得ぬという議論。
そもそも世界の通貨需要を賄うには、余りに量が少なすぎる。
そして、一国の金保有量を超えて通貨供給を増やすことは出来ないので、金融政策の自由度が制約される。経済危機が勃発して、市場が信用収縮に見舞われても緊急流動性の発動がままならぬ。景気が悪化しても通貨供給を増やすことが出来ない。
これらの議論は、筆者にしてみれば、「我が意を得たり」
「金を通して世界を読む」の54ページ以降に詳述したこととピッタリ合致するからだ。
そもそも、金本位制は勝手に紙幣を増刷できない制度なので、中央銀行の役割を信じていないシステムゆえ、中央銀行の間では頗る不人気であることはたしか。
国民が金購入に走るということは、紙幣の発行元の中央銀行に対する不信任投票とも言えるからだ。
だから筆者は、金本位制は「性悪説」。現在の信用通貨制度は「性善説」と述べてきた。
リーマン・ショック以降、性悪説が強まっていることは確かなので、ノスタルジーも含め「金本位制郷愁論」が盛んになった。
そこで、金本位制は極論にしても、外貨準備として金保有を増やすという動きが顕在化していることは、時代の流れと言えよう。
金投資という行動も、金本位制の下では紙幣を中央銀行に持ち込めば金と兌換できるという保証があったが、それが出来ない今ゆえ、民間の金市場で金を購入するということなのだろう。

2012年