豊島逸夫の手帖

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日中領土問題のテール・リスク

2012年8月28日

領土問題は、想定外のアクシデントを生むことがある。
昨日の日本大使公用車襲撃事件も、そのひとつであろう。考えてみれば、今の状況下で、北京の大通りを日本国旗掲げ公用車で走るということ自体、避雷針のようなものかもしれない。
実は、以前に尖閣問題が先鋭化したとき、筆者は、たまたま、日本のテレビ局の取材で北京に居た。そこで、裏通りでキャスターと街頭トークしていたら、突然、パラパラと公安に囲まれた。内心、「軟禁」の言葉が心をよぎったが、CCTV(中国国営テレビ)との共同制作だったので、何も起こらなかった。
でも、それくらいに、公安はウオッチしている。
日本大使の公用車が全く無防備で看過されていたことが不自然にさえ思える。

昨日本欄で書いたように、筆者が8月25日に上海で開催された貴金属セミナーに講師として招聘された際に、主催者側は、異例の措置として旅行保険をかけてきた。時節柄、400人もの中国人個人投資家に向かって、日本人講師がステージに立ち、講演することのテール・リスクを考慮してのことだ。
筆者程度でも、テール・リスクが予想されるのだとすれば、日本大使の公用車が、かくもたやすく囲まれ停止されるのは、警備上問題ありといわねばなるまい。主張すべきは明確に主張するのが中国流だ。ここは断固とした抗議が当然である。主張しなければ、何も起こらないのが中国だ。
例えば、北京でタクシーを拾うのは容易ではない、筆者もやっと最近慣れてきた。車道まで出て、勝手にタクシーのドアを開け、乗られる前に乗り込んだもの勝ちの世界だ。

さて、上海貴金属セミナーでの中国人投資家向け講演要旨は以下の通り。

米中ゴールド戦争と米中通貨戦争


米国と中国は金の世界で戦争をしています。
ニューヨークの金先物市場が空売り攻勢をかけて価格が下がると、中国は安くなったところを買ってきました。
ニューヨークが売れば、中国が買う。
この米中金戦争は、リーマンショック以来何回も繰り返されてきました。
今年も3回ほどありました。その度に金価格は1500ドル台に下がりました。
しかし、中国の買いのほうが強く、ニューヨークの空売りは買戻しを余儀なくされました。
先月から今月にかけても、ニューヨーク市場ではリスク回避の金売りが出て金価格は1500ドル台まで下がりました。
しかし、中国の買いが下値を支えました。
そして、米国でQE3の可能性が高まり、金は今週に入り、1670ドルまで急反発しています。
結局、米中ゴールド戦争は中国の連勝なのですね。

でも、もう一つの米中戦争では米国が優勢です。
それは、米中通貨戦争です。
米国のFRB議長ベン・バーナンキ氏は、量的緩和政策を続け、ドル札をばら撒いています。
このドル札の津波は、中国をも襲っています。
中国は、その津波を防げません。既に、大量のドルを中国人民銀行は貯め込む羽目になりました。
中国の外貨準備は3兆3千億ドルに膨張していますが、その7割は米ドルと言われるほどなのです。
中国は米ドルをそんなに持ちたくないでしょう。
抵抗しますが、この米中ドル戦争は米国が有利です。
なぜなら、米国の武器はドル札。
その武器、つまり、ドル札は無限に刷れるからです。
そこで、中国人民銀行は金準備増強に動いています。
IMFの最新統計によれば、米国政府は金を8133トン保有し、外貨準備における金の割合は75.1%です。
しかし、中国政府の保有する金は、近年増加傾向といえども、僅か1054トンです。その外貨準備に占める金の割合は、僅か1.6%なのです。
米国は、中国の8倍もの金を保有しているのに、中国は、米国の借金証文である米国債を大量に保有する羽目になっています。
私は、これから、中国人民銀行が、段階的に金保有を増やすと見ています。
中国人民銀行がニューヨーク市場に金買い攻撃で本格反撃するとき、金価格は再上昇するでしょう。
ベン・バーナンキ氏は、元は学者でした。その頃、こう語っています。
「景気が悪くなれば、ヘリコプターからドル札をばら撒けばよい」
皆、それは冗談だと思っていましたが、彼は本気でした。
いま、ベン・バーナンキ氏は、"ヘリコプター・ベン"というあだ名で呼ばれています。
中国人民銀行の総裁は、ヘリコプターで金塊をせっせと運ぶことになるのでしょうか?

2012年