2012年10月2日
1日のインディアナポリスでのバーナンキ講演(エコノミック・クラブ)の中継を見ていたが、質疑応答が面白かった。
質問者「xx経済会合でのコメントですが・・・」
バーナンキ「ああ、あそこの料理はうまかったね。」
などと軽く受け流しながらも、米ドルの価値についての質問となると、「リーマンショック前に比し、米ドルの価値は変わっていない。30年債の利回りを見ても、投資家は今後30年間米国に2%台でカネを貸している。インフレ期待が高まっているとは言えないであろう。」とキッパリ。共和党が大統領選挙候補者演説で量的緩和政策の将来的インフレリスクを問い、「バーナンキ更迭論」まで唱えていることへの反論とも思えた。
しかし、終わってみれば、今回のバーナンキ講演に新鮮味はなし。
もはや、FRBとしては、切り札を切ってしまったわけで、NY市場ではポーカーのオールインに例えられる。手持ちのチップ全てを賭けた状況で、それ以降のラウンドではベット無しで最後まで参加できるが、もはやアクティブ・プレーヤーではなくなる。つまり、ゲームには参加を続けられるが、もはや実質的存在感はなくなるわけだ。
このバーナンキ講演後、NY株もNY金も一転下げたことが、QE(量的緩和)という材料の陳腐化を印象づけた。
金価格はNY午前中にスペイン銀行ストレステストの結果を好感したリスクオンの波に乗り、一時1800ドルの大台に迫る急騰を見せていたが、バーナンキ講演直後から急落。結局1770ドル台で引けた。
市場の潮流を見るに、そもそも一時は1500ドル台にまで沈んでいた金価格がこの水準まで上がってきた過程は、ひとえにQE3期待であった。その期待は裏切られず、寧ろ期待以上の「無期限、オープンエンドのQE」(これを筆者はブログでQE∞と書いてきた)と「満額以上の回答」となるや、投資マネーの金流入は加速した。
金ETF市場の残高は2400トンを大きく超えた史上最高水準に達した。これは国別公的金保有ランキングでは5位のフランスを抜く規模に匹敵する。(ちなみに年間金生産量が2800トン強である。)NY金先物買い残高も歴史的に見て最高水準近くまで膨張中だ。こうなると先物投機筋は「出口戦略」即ち売りのタイミング模索を始めるもの。
そもそもQE∞に関しては、失業率が6%台に下落にするまで、とか、非農業者新規雇用数が20万人をコンスタントに維持するまで、とか、その継続について様々な解釈が市場には流れる。しかし、連日、この同じ材料を買いの口実に使っていれば、早晩陳腐化は必至。1日のバーナンキ講演で、これまでと同趣旨の発言が繰り返されたことで、「賞味期限」が切れつつあることが露わになったといえよう。
金融政策が万策尽きると、既に一足早く万策尽きた財政政策のほうにマーケットの関心は移る。所謂「財政の崖」問題が、新たな四半期(10-12月期)の市場の主たるテーマとなろう。
マネーを無期限にばら撒くだけでは、「財政の壁」は乗り越えられぬ。この厳しい現実を「米国債格下げ」などで思い知らされるときが、金価格高騰の次の山となろう。