豊島逸夫の手帖

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粘土細工の尖閣模型、「日中冷戦時代」の兆し

2012年10月26日

「幼い息子の通う学校授業で、粘土細工で尖閣諸島模型を作らせ、ミニ中国国旗を差し込ませている」、「『日本人は尖閣を盗んだ』と生徒たちに連呼させる」、「中国の歴史教科書に尖閣に関する新たな1ページが出来そう」。
個人的に親しい中国人が、顔を曇らせ語った。

筆者は、中国の金取引所や、金解禁後の大手商業銀行貴金属部のアドバイザーとして過去13年間、緊密に中国と関わってきた。「金」という特殊ルートを通じ、北京の「奥の院」にも出入りを許されていたようなものだ。
それが、上海で450名の中国人個人投資家相手のセミナーで講演した8月25日を最後に、「当分、上海においでいただくなくても結構です。」と丁重な連絡とともに「休眠状態」に入った。
大型プロジェクトを立ち上げる寸前のタイミングだったので、私的コミュニケーションで伝わるところでは、現場も「指南役抜き」で実務面の適合性判断を計りかねているようだ。

だが、筆者が危惧していることは、一プロジェクトの成否ではない。尖閣問題が「日中冷戦時代」の幕開けとなり、関係修復に、福島原発廃炉と同じくらいの年月を要する可能性を感じるからだ。
日本製品不買運動は「中国経済国内消費にも影響を与え、減速中の中国経済にもマイナス」との日本側の議論も聞かれるが、韓国製などで代替可能な商品が多い。
日本製品に対するロイヤルティーを感じているのは、もっぱら富裕層。普通の中国人の価値観から見ると、「過剰品質」・「高価格」の日本製品へのこだわりは希薄である。マイカーのシートの座り心地良さが劣っても、価格面で安いほうが一般消費者には選択されがちだ。

対する日本側では、現場を見る「虫の目」(中国監視船の領海侵犯回数など)と、中期的潮流を見る「魚の目」(日中関係の循環的疎遠期入り)で見る論調が目立つが、歴史的に俯瞰する「鳥の目」が薄いことが気がかり。
中国側が尖閣を「歴史的問題」と論じていることへの反発から、日本側は敢えて「鳥の目」を閉じているわけだろうか。しかし、現実は、日中関係が「歴史的転換点」にあることを否定はできまい。
米ソ冷戦の象徴は人為的に構築されたベルリンの壁であった。
しかし、尖閣諸島を地図から抹消することは出来ない。
学校の授業で尖閣の模型を作る一人っ子たちが成年するときは、中国も世界有数の少子高齢国家になっているはずだ。国家が成熟すれば、尖閣模型の幼児体験も忘れ、隣国とも「おとなの関係」でつきあえるようになるものだろうか。
「鳥の目」で見れば、日本側がなすべきことは、本欄10月10日づけ「日米印、中国包囲網の環境整備」にて詳述したように、まず「インドと仲良くすること」であろう。

さて、金価格は、1700ドルを割り込んだところで1715ドルまで反発した。プラチナも1570ドルまで戻した。
徐々に底値圏がジックリ醸成されつつある状況。

2012年