豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. 中央銀行主導の相場展開 今週の注目はFOMC
Page1164

中央銀行主導の相場展開 今週の注目はFOMC

2012年3月12日

今の貴金属市場に影響を与えている主な要因は四つ。
1) 日欧米金融緩和動向
2) 欧州債務危機
3) 中国経済減速
4) イラン情勢
先週の米国雇用統計は良い数字だったので、QE3遠のくという解釈で一旦は売られたものの、前々回本欄で詳述した、WSJ紙がすっぱ抜いた不胎化つき量的緩和策検討中の材料も効いて、買い直された。QE依存症のマーケットは、とにかくQEの匂いに強く反応する。
その意味で今週のFOMCには大いに注目。
ギリシャデフォルト認定、CDS発動の報は、リスク・オフで売りの要因なれど、これは織り込み済みで大事無し。しかし、4月のギリシャ総選挙を控え、ギリシャが受け入れたとされる追加的緊縮案も、アテネ市民に言わせれば所詮レームダックの現首相が署名したこと。新政権はおそらく緊縮反対のマニュフェストを掲げ、緊縮の実効性に大きな疑問符がつく。そして前回書いたポルトガルにも債務削減の動きの件は、その後報道でも流れる展開となっている。
結局、ギリシャ問題は野球に例えれば5回裏から6回表にゲームが進んだ程度。
金市場は1)の材料をベースに長期的上昇トレンド継続なれど、2)の材料で、ところどころ「落とし穴」的な短期下げ局面が繰り返されよう。足元の上げも地合いは脆弱だ。
そこで、ワイルド・カードは、中国とイラン。
中国は全人代の目標経済成長率が7.5%にまで引き下げられたものの、先週発表の消費者物価上昇率が昨年の6%から3.2%にまで鎮静化。危惧されたハード・ランディングより、ソフト・ランディングを連想させる。中国バブル崩壊で金需要急減の可能性は低い。但し、金価格下落局面での中国買いの下値サポートが去年のような「鉄板」といえる状況ではなくなってきている。インドの経済成長率も6.1%にまで急落した。ここに足元の金価格地合いの脆弱性を見る。
そして、イラン。
仮にイスラエルのイラン国内核施設限定空爆などの事態が勃発すれば、地政学的要因として上げ材料となろうが、陳腐化しやすい要因なので影響は一過性。
総じて、年初に述べたように、年前半は一進一退、後半、米国QE3と欧州版QEの競演で新高値更新もありうる、という見方に変わりなし。

さて、週末は東証IRフェスタ(有楽町国際フォーラム)で講演。
金とギリシャ現地レポートがトピックであったが、特にギリシャ関連に興味ある様子であった。
おりから円安と日本株1万円回復で個人投資家も「冬眠から揺り起こされたクマさん」の如く蠢き始めた矢先のIRイベント。NHKニュースでも報道されたとのことで、朝方の雪模様にも関わらず、350名収容の講演会場も埋まった。
筆者にとって、こういう株中心のイベントでの講演は正直辛いものがある。サッカーでいえば、アウェーのゲーム。金は株の対極にある資産なので、株を貶めず、金を語る塩梅が難しい。金は長期保有というのが筆者の持論だが、取引所としては、買って売っての売買高が増えないと困るのだろうし。とはいえ、総合取引所構想が進行しており、商品も金融庁・東証主導の市場インフラになりそう。
こういう投資イベントで痛感することは、コモディティーというセクターに投資家は熱い眼差しであるが、業界がそれを受け止めることが出来ていない。野球でいえば、ピッチャーがど真ん中のストライクを投げているのに、ただ見逃しているような感じ。そういう間にも観衆の数だけは増える。
新規参入の銀行・証券にしても、コモディティーはこれまでコアではなくノン・コアの扱いであったので、まずは社内教育から始めねばならぬ。筆者も支店長会議とか支店向けビデオ・レクチャーなどに駆り出されるので、現場の複雑な受け止め方も分かる。支店にしてみれば、場が引けた4時ごろから、またまた「新商品」の勉強に集合命令。個人投資家セミナーは熱いが、こういう勉強会は「義務感」が支配する。
それにつけても、これも筆者が手伝っている中国市場のほうは、アクションが早いので、正直羨望さえ感じる。

なお、今日(3月12日)日経CNBCのデリバティブ番組で金市場の見通しを語る予定。(夕方5時過ぎ、再放送 同日夜8時過ぎ)

2012年