2012年12月17日
シカゴ通貨投機筋は、「84円突破には自公320議席必要」と事前予測してきたが、結果的に市場は「満額回答」を得た。
ここからはモメンタム(勢い)に乗る円売りと、日本の金融節度、財政規律の緩みを懸念する「悪い円売り」の共振現象がマーケットをヒットしそうだ。
まずは、19-20日の日銀金融決定会合への注目度が更に高まる。仮に、市場が期待する「満額回答」が出なくても、次回への期待感で円安は持続しそうだ。
政権交代で、日本の少子高齢化傾向や移民を拒む国民性が変わるわけでもない。「流動性の罠」に陥った「低血圧症」の日本経済に、無制限の国債買い取り、インフレ・ターゲット、大型財政出動などの「昇圧剤」を投与して、一時的に血圧が上がっても、過剰投薬の副作用が避けられない。
欧米市場は、選挙直後のハネムーンから覚め、「モーニング・アフターのコーヒー・タイム」でマーケットが感じるであろう寒々としたセンチメントを懸念する。
外為市場では、IMM(シカゴ国際金融市場)における投機筋円売越残高は、94,401枚と5年超ぶりの高水準にある。この残高は、12月11日時点の数字なので、21日に発表される12月18日時点での数字は更に増加するであろう。
その結果、市場内には記録的な円買戻しエネルギーが醸成されている。円売り→利益確定の円買い→円高で戻ったところを再び円売り、という「売買回転が効いている」限りは、戻りの円高といっても82円程度に留まろう。
しかし、市場がアベ・ユーフォリアから覚醒したときの円買い巻き戻しのマグニチュードは、タイミングが先送りされればされるほど、強烈になることは肝に銘じるべきだ。
更に、最も重要なことは、中長期的トレンド。
これについては本欄でも繰り返し述べてきたが、貿易収支赤字を所得収支黒字が埋める構造変化が、「極端な一方的円高トレンド」の終焉を告げている。
潮目はたしかに変わった。しかし、これをもって直ちに「円安トレンドへの転換」を保証するものではない。
中期的に円安トレンドが進行するシナリオは、2013年に欧米で「日本債務危機」が材料視され、足の長いマネーが円離れを起こすケースだ。
アベノミックスは、ある意味で寝た子を起こしてしまったような感がある。これまで、リーマンショック、欧州債務危機の中で、相対的に「安全視」されていた円の「避難通貨」としてのブランドのメッキが剥げてきたからだ。
このままゆくと、2013年は、FRB,日銀、そしてECBの「量的緩和競演」という「舞台の場」になりかねない。金市場では、この「場」が「通貨堕落debasementの競演」と呼ばれている。
その「幕」では、米国経済の住宅・雇用関連指標の改善が続き、欧州債務危機懸念が一服するような展開になった場合に、相対的に日本の公的債務危機懸念が浮上しかねない。
あくまで「懸念」であり、決して2013年に現実化するわけではないが、マーケットはセンチメントで揺れ、また、先取りして動くものだ。
米国のQEは中央銀行主導でバーナンキFRB議長の記者会見などを通じ市場とのコミュニケーションも充分に図られている。しかるに、日本のQEは政治主導だ。中央銀行の独立性が危うい国の金融節度に、欧米諸国は特に敏感である。
なお、日本では「円全面安」の報道が目立つが、14日のニューヨーク市場では「ドル全面安」のヘッドラインが圧倒的に多かった。
特に最も取引の多い対ユーロで7ヶ月ぶりのドル安値(1.3174)をつけ、ドル・インデックスも80.00台から79.60台に急落している。IMMにおける投機筋の米ドル取組残高(12月11日時点)も買い越しから売り越しに転じた。
やはりFOMCでの緩和強化が効いている。
それゆえ、19-20日の日銀金融政策決定会合で、FRBに「負けず劣らず」の数字が出るか否かが注目されるのだ。
まさに「量的緩和競演」の様相である。
なお、円高への本格的巻き戻し局面としては、来年2月頃が意識される。
「米国債務上限引き上げ」が決定され、「米国債格下げ」の事態になると、ドル安インパクトが円安インパクトを上回るかもしれない。
また、欧州債務問題も「緊縮」と「成長」の狭間に揺れ、「最悪の時は去った」との楽観論も台頭しつつあるが、まだまだ予断を許さぬ。欧州発のリスク・オフが、相対的に円の「安全通貨」ブランドを復活させるやもしれぬ。
これらの事態が同時に起これば、ドル円80円割れも十分に考えられる。
常に、外国為替レートは通貨間の相対評価なのだ。
外為レートは、短期的には金利差要因とリスク許容度要因で動き、長期的には構造要因で動くものだ。
筆者の見立てとしては、長期的には円安トレンドだが、短期的には、今週が「安倍円安」のピークか。
最後に、日中関係の悪化が孕む「地政学的リスク」も2013年の潜在的要因として、欧米市場関係者の新年市場展望レポートに書き加えられそうだ。
日中間の外交のパイプが破断されたまま、修復の可能性は益々低くなった。
中国側も、このタイミングを狙って、「領空侵犯」などの「挑発的行為」を繰り返すだろう。
もはや、両国とも、振り上げた拳の落としどころが見えない。
日本の新政権には、中国にはタカ派、金融にはハト派というレッテルが貼られ、そのリスクが意識されている。
なお、土曜日15日に日経電子版のほうに書いた選挙事前予測原稿は以下の通りです。
84円突破には自公320議席必要
14日取引終了後に発表されたIMM(シカゴ国際金融市場)における投機筋円売越残高(11日時点の取組残高)は、94,401枚と、前週の5年超ぶりの記録的水準(90,326枚)を更に上回った。
しかし、時系列で見ると、さすがに頭打ち傾向だ。
10月23日18,196
10月30日 37,020
11月 6 日 40,104
11月13日 30,447
11月20日 51.389
11月27日 79,466
12月 4 日 90,326
12月11日 94,401
シカゴ投機筋にも自公300議席獲得予測報道が伝わり、既に83円台で織り込まれている。14日の値動きも一時83円75銭までつけたが、結局83円40-50銭で引けている。円の安値引けとはならなかった。
ここから84円を突破するには、織り込まれた300議席を上回る320議席程度が必要と投機筋は語る。
円ショート(円売り)ポジションがtoo crowded(=混みすぎている)とのコメントも目立ち、膨張した円売りバブルの巻き戻しを警戒するムードが強まっている。
なお、日本では「円全面安」の報道が目立つが、ニューヨーク市場では「ドル全面安」のヘッドラインが圧倒的に多い。
特に最も取引の多い対ユーロで7ヶ月ぶりのドル安値(1.3174)をつけ、ドル・インデックスも80.00台から79.60台に急落している。IMMにおける投機筋の米ドル取組残高(12月11日時点)も買越から売越に転じた。FOMCでの緩和強化決定が効いている。
米ドルと円の「通貨安競争」はここまで円がリードしてきたが、足元では米ドルが追い上げ、接戦模様だ。
FRBのFOMCと日銀の金融政策決定会合(12月19日~20日)での「追加的緩和量」が比較され、「通貨価値の堕落度」が高い通貨がリードするという、なんとも情けない競争ではある。