2012年3月14日
貴金属会社は、店頭金小売価格と買取価格を毎日発表している。小売価格には消費税が課税されるので(消費税込み)という但し書きがつくが、買取価格にも同様に(消費税込み)の表示がある。買取価格も消費税分が上乗せされているのだ。
その上乗せ部分は、消費税増税ともなれば増税分だけ増えることになる。
そこで店頭では、この「増税プレミアム」を当て込んで金地金を買う目ざとい個人投資家が出始めた。いよいよ増税ともなれば、駆け込み購入ラッシュも起きかねない様相だ。
消費税増税絶対反対!と唱えていた人が、金地金買った途端に賛成派に転向するのには思わず失笑。
増税に対する投資家のささやかな防衛策なのだろうか。
さて、昨晩のNY金価格はFOMCの予想外の強気な景気見通し(上方修正)を受けて30ドル以上下げ、1660ドル台まで一時急落した。3月9日日経夕刊「商品ウオッチ」の「貴金属、高値調整鮮明に、米追加緩和を巡り神経質」という記事で、筆者は「金融緩和依存症に陥っていた金相場がQE3というハシゴを外された」とコメントしたが、今回のFOMCでも、QE3に関する言及はなく、金市場では禁断症状が悪化した。FOMC内で景気強気派の影響力が強まり、QE3が「FRB内で議論のテーブルから外される」様相が強まったので、金は売られたわけだ。
ゼロ金利は「14年終盤まで継続」という、金利を産まない金には「朗報」が確認されたにもかかわらず、売り込まれたところに、依存症の症状進行が感じられる。「その程度の刺激では物足りなくなってきた。もっとはっきりQE3を明言してくれないと鬱になってしまう。」と言いたげである。
ここで、興味深いのは、プラチナ価格は下がらず、金価格を久し振りに上回ったことだ。
プラチナはQE3依存度が金より低い。
通貨としての顔を持つ金は、量的緩和により通貨価値が希薄化すると「刷れるドル、刷れない金」が意識され代替通貨として買われる。
ゆえに、追加的量的緩和観測が後退すれば、代替通貨需要も減る。
しかし、プラチナは、あくまで自動車排気ガス清浄化触媒中心の産業用素材であり、代替通貨として買われることはない。
通貨と商品の二面性を持つ金に対し、あくまでピュアな商品であるプラチナは、FOMCの景気見通し上方修正により実需増(特に自動車販売増)の期待感で買われる面もある。
但し、マクロ経済の潮流を見れば、欧州発のリセッションが中国にも波及したことが、プラチナ価格には重しとなりジワリ効いている。更に、金は外貨準備として買われるが、プラチナが外貨準備としては買われない。昨年の金市場10大ニュースのトップに、筆者は「中央銀行セクターが従来の年間500トン前後の売り越しから2011年は400トン以上の買い越しに転じた」ことを挙げた。絶対量で900トンの差は、年間生産量が2800トン程度の金市場の需給の景色を変える。
市場に大きな構造変化が生じているときに、金プラチナの価格差を、従来の経験則のみで予測することは危険だ。筆者はスイス銀行時代にプラチナ・トレーダーでもあったが、ベテランゆえに「プラチナは金より高くて当たり前」という「市場の常識」を頭の中のハード・ディスクから消去して、敢えて引いてみるように努めている。
最後に、本稿執筆中(NY株式市場引け際)に、FRBが明日発表予定の米銀ストレステストの結果を前倒しで発表したことでNY株価が上昇している。(JPモルガンがフライングでストレステスト結果良好ゆえ増配と自社株買いと発表してしまったからだ。)金も1670ドル台まで反騰している。今回のストレステストは、前提条件が「失業率13%,株価50%下落、不動産価格21%下落」と、前回(2009年)に比し極めて厳しい。にもかかわらず対象となった米銀大手19行のなかでシティーなど4行を除く14行が合格で、増配、自社株買いも問題なしとの「FRBのお墨付き」に、マーケットはリスク・オンとなり、金もその流れで買い直されたわけだ。
中央銀行主導の相場展開ながら、リスク・センチメントで小刻みに振れる今の金市場を象徴する一日であった。