豊島逸夫の手帖

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米共和党、金本位制導入へ動く

2012年8月29日

米国大統領選挙の共和党副大統領候補ポール・ライアン氏は、筋金入りの金本位制論者だ。それゆえ、案の定というのか、共和党綱領に「金本位制」を盛り込む動きが顕在化してきた。
貨幣価値の希薄化を産む量的緩和の対極として、通貨供給量に金の保有量という上限を課す金本位制は、党の方向性を示す策としては分かりやすい。ドルは刷れるが、金は刷れない、とでも主張したいのだろう。
しかし、筆者は金本位制に対して極めて否定的である。
金本位制を導入すると、金融政策の弾力的運用が出来なくなる。金融危機に際し、クレジット・クランチ(信用収縮)が生じても、緊急流動性導入ができない。
金融当局の節度を欠く通貨供給(所謂マネーじゃぶじゃぶ現象)を防ぐ意味では、金本位制はインフレにはなりにくいシステムだ。しかし、デフレ時に金融のバルブを緩めることが制約されるという大きな欠点を持つわけだ。
しかも、成長通貨の供給も出来ない。バイオなど優秀なハイテク産業などの成長分野に対し、必要な資金供給が出来ないこともありうるわけだ。世界経済が低成長の昔でこそ成立したシステムだが、現代の成長経済には馴染まぬ。
そもそも、金の埋蔵量が多い、中国、ロシア、南アなどは潜在的通貨供給量も多いという点が公平性を欠く。
それでも、金本位制の「ノスタルジア」が見られるのは、やはり、リーマンショックの影響であろう。
現在の信用通貨制度は、金融当局の節度ある金融政策を前提としている意味で「性善説」の上に立つ。しかし、リーマンショックで金融当局の節度もアテにならないことが露呈した。そこで、反動として、金本位制という「性悪説」に基づくシステムが見直されたのであろう。錬金術という言葉こそあれ、人間が金を作ることは出来ない。数億年かけて地下の自然現象で出来た希少資源だ。人間が供給を勝手にコントロールできないモノを通貨として使うわけだから、性悪説だと筆者は感じている。
それゆえ、一部学者の間や、「トンデモ本」の世界では人気あるトピックではある。実は、筆者の卒論テーマも金本位制であった。しかし、社会人となり経済の実態を知り、完全な否定論者となった。
なお、共和党は80年代前半のレーガン大統領時代にも「Gold Commission」金委員会を創設し、金本位制議論の場とした。
金本位制は、共和党の「おはこ」と見える。

2012年