豊島逸夫の手帖

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日本売りを誘う「おむつ指数」

2012年12月5日

解散・総選挙が誘発した円安、日本株高現象をキッカケに、欧米市場では改めて日本経済のデューディリジェンス(精査)が始まった。
そこでしばしば引き合いに出されている事象が、3月20日付け日経で報じられた下記記事である。
「ユニ・チャーム、大人用紙おむつにシフト、子ども用を逆転」
同社は、子供用紙おむつも毎年数%ずつ伸ばす計画だが、大人用は2ケタ増が続いている。13年3月期には大人用紙おむつも600億円台を突破し、子供用を初めて上回る見通し。業界推定によると、紙おむつ市場全体でも、11年にほぼ同じ1400億円だった大人用と子供用は12年に逆転するもよう、という内容の報道だ。
この記事がFinancial Timesなど欧米メディアで再び取り上げられ、日本の高齢化が臨界点に達した例として語られているのだ。
この経済に、非伝統的金融政策で活性化を目論むのは無理筋との認識がマーケット内に拡散。昨日本欄で指摘した「日本の選挙の崖」が意識され、選挙後の「日本売り」を誘発しかねない市場センチメントが醸成されつつある。
著名投資家ジム・ロジャーズ氏が、筆者との4回にわたる対談で、繰り返し「今は円も日本株も保有しているが、日本のデモグラフィック(人口統計学的属性)を見れば、いずれ、日本関連は総売りさ」と語っていたことを思い出す。
筆者の顔を見れば「ジェフ(筆者のニックネーム)!シンガポールくんだりまで来て経済の話をする時間があるなら、もっと子供を作れ。君の国に一番足りないものだろう。」とけしかける。
本稿冒頭に述べたデューディリジェンス(精査)の過程では、今更のように、「ギリシャより遥かに悪い日本の累積財政赤字対GDP比」も俎上に上がる。もって他山の石とすべし、との欧米側の自戒論も目立つ。
金融政策の限界の例としても取り上げられている。筆者流にいえば元祖量的緩和の日本は既にQE8なのだ。そこにアベノミックスは更にQE∞を提唱している。
日銀法改正の動きなども、中央銀行の独立性を重視する世界的傾向に逆行する出来事。日銀は黙っているのか、と問う論調も根強い。

日本の出生率は2011年で1.39という数字も精査のプロセスで改めてやり玉に上がっている。
パリの友人アナリストが、フランスの出生率は2.01と上昇している、と得意げに語るので、つい意地を張って、「no free lunch=タダ飯は無いぜ。高出生率、高福祉のコストにフランス経済は耐えられるのか」と切り返してしまった。
このような徹底した精査の結果、アベ・ユーフォリアが剥落したときの選挙の崖に欧米市場は容赦ない日本売りで反応する可能性がある。ヘッジファンドは、今度こそ日本国債を売り崩せると意気込む。(個人金融資産1500兆円の機関投資家経由、"鉄板"のガードはまだ固いと思うが。)
筆者の個人的印象としては、解散・総選挙が「やぶ蛇」となり、世界のマーケット内で寝た子を起こしてしまったのかもしれない。
降ってわいたような円安、株高は、市場の気が変わらぬうちに、臨時冬季ボーナスとしてサッサと有難く頂くことにしよう。

さて、金価格は再び1700ドル割れ。
足元のNY市場は、「財政の崖」一色。
「いずれ民主・共和で妥協する」との楽観論がアナリストの間では強いが、これまで積み上げた16兆ドルの借金の山が消えるわけではない。結局、先送りの繰り返し、と読む投資家が多く、とりあえずリスク回避に動いている。
その過程での金買いポジションの売り手仕舞いである。特にマクロ系ヘッジファンド(市場の大きな流れに乗って儲けようとするファンド)が投げてきている。昨日も、NYの寄り付きで一気に1700ドルを割り込んだ。大量のストップロスがヒットされたわけだ。
しかし、1700ドル割れれば、中国・インドの現物需要が経済減速とはいえ、下値を支える。
ただ、円建てでは、円高、金安のダブルで下げているね。
短期的にドルとの相関が薄れ、リスク許容度との相関が強まっている。
大崩れはないから、下値模索の段階は長期的には買いゾーンだと思う。

2012年