2012年7月23日
20日金曜日、スペイン国債利回り過去最高水準7.3%瞬間突破の引き金を引いたバレンシア。同地方政府がマドリッドの中央政府に財政支援を要請との報道が流れたことで新たな不安材料として浮上した。
スペイン財政危機の様相は、地方自治州という放蕩息子を持つ放蕩親父を彷彿させる。
中央政府のラホイ首相は、先のEU首脳会談で、緊縮条件無しの「屈辱なき」救済支援合意を取り付けたことで「勝利宣言」したばかり。ところが地方自治州に対して「救済側」の立場となるや、「厳格な財政規律条件と、経過報告義務履行無しでは救済に応じられず」と頑なに主張。対するカタルーニャ、バスク、アンダルシアはこれ以上の支出削減を拒否の姿勢だ。
今回の火種、バレンシア州は、ラホイ首相率いる国民党(PP)が制する地域だが、地方財政不安が表面化するや、38名の中央政府閣僚の中でバレンシア州出身者は一掃され、距離を置く姿勢が明確になった。放蕩息子とは縁切りしたいという放蕩親父の本音が透けて見えるが、放蕩親子の縁を切れるはずもない。
実は、バレンシア州は先進的で地域経済も順調なラホイ首相ご自慢の模範地方自治州であった。しかし、その地域経済サクセス・ストーリーの影には常に政治家の姿があった。その主役が前知事のフランシスコ・カンプス氏。地位と富を築き、飛ぶ鳥を落とす勢いであったが、今や、数々の収賄疑惑で裁判係争中の身である。
例えば、メガ・テーマ・パーク建設計画に係わり、地方貯蓄銀行経由で300億円相当の融資を取り付け、巨大な用地を買い上げ、不動産バブルの油に火を注いだ。
更に、下水工事では業者との癒着、F1誘致にも便宜を図り、公的資金200億円相当以上を使ったことで非難された。極めつけは、カステロン地方空港建設。150億円相当を投じ、昨年完成したものの、実際の使用開始の目途は立っておらず、放置されたままだ。
どれを取っても、筆者がアテネで見聞きした話のようでもあり、日本での地方出張の度に聞かされる話のようでもある。
地元の与党PP党幹部は「我々が貯蓄銀行だったら、とっくに中央銀行であるスペイン銀行の管理下に入っているはず。幸いなことに、我々は銀行ではなかった。」と語る。殆ど開き直りに近い発言だ。
「スペインは人生エンジョイ派の国柄。カネがあれば使う。個人も政府も。」これも政治家のコメントだ。アテネでも同様の発言に接したことを思い出した。
更に、直近に起きたことで、あきれたケースなのだが、RTVVという地方放送局で従業員が番組を中断させるという騒動があった。その原因が、1700名に膨れ上がった社員の中から1300名を一時解雇するというリストラ。地方テレビ局に1700人も働くという状況が筆者にはどう見ても理解できない。結局、このテレビ局は実質的に政治家の報道媒体化していたようである。
地方自治体が財政危機に陥ると、そのしわ寄せがまず弱者を襲うことも、洋の東西を問わず同じこと。
バレンシア州では、学校への運営経費支出が滞り、2011年分の予算が2012年2月にやっと執行されたという。そのカネは、溜まったツケの支払いで瞬時に消えた。そこで、当座の清掃費やら給食補助費やらは、父兄が一部出し合って凌いでいるようだ。
スペインの銀行危機と地方財政危機は表裏一体の関係にあるのだが、その複雑骨折の症状がいよいよ顕在化してきた。
地方自治体という「ギリシャ」を複数かかえる中央政府が発行するスペイン国債こそ、「ユーロ共同債」のようなものだ。そのテスト・ケースになるのだろうか。