2012年3月7日
2月25日付け 日経朝刊商品面には「金1800ドル接近」の見出しが躍ったが、3月2日付けでは「金急落、1700ドル割れ」。その後、中国の下値買いで1720ドル台まで反騰したが、一巡するとフォローの買いが続かず。昨晩は、1660ドル台にまで続落した。
そもそも、ギリシャ第二次救済による欧州危機感後退し、リスク・オンでリスク資産としての金が買われ、1800ドル台に接近した。しかし、デフォルト回避から生じた市場の安堵感も長続きせず。金価格のギリシャ救済プレミアムはあっけなく剥落した。
キッカケは、2月29日のバーナンキ議会証言。市場が密かに期待していたQE3に関する具体的言及は無し。市場には失望感が走ったのだ。
1700ドル前後まで下がったところで、期待の星、中国がいつものように買いを入れ市場を支えた。しかし、昨年の勢いがない。やはり経済減速がジワリ効いているようだ。
そして、昨晩ギリシャ債務削減に、ギリシャ国債保有投資家が自発的に同意・参加するか微妙な情勢になり、一挙にギリシャ・リスクが再燃した。参加意思表明の期限は8日。ギリシャ国債保有者の自発的受け入れ、参加数が不十分だと、不同意の投資家も強制的に債務削減に同意させられるという「集団行動条項」を、ギリシャはちらつかせる。仮に、この条項が発動されると、「自発的」ではなく、「強制的」債務削減ということで、ハード・デフォルトの可能性が急浮上する。
前回のギリシャ第二次救済は、「ギリシャにデフォルトされては困るEU諸国首脳」たちが妥協、合意に漕ぎ着けた。
しかし、今回はデフォルトを望む、ヘッジファンドが絡んでいるので厄介だ。彼らは、デフォルトになれば、一種のデフォルト保険ともいえるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)により、ギリシャの債務不履行による損失をカバーできるからだ。自主的に債務削減に応じては、デフォルトと認定されず「保険金」はおりない。しかも、ヘッジファンドはギリシャ国債保有投資家の代表である国際金融協会(IIF)に参加していない。
さて、筆者の相場観。
冒頭に述べた2月25日1800ドル接近の記事でも「ギリシャ問題に再び焦点が当たれば、リスク回避でマネーは流出する」と釘を刺し、更に3月2日1700ドル割れの記事でも「欧州債務問題に再び焦点が当たり、リスク回避の売りが相場を押し下げる可能性がある」と繰り返し警告してきた立場ゆえ、「想定内の調整」である。現地アテネとフランクフルトで、貸し手と借り手の言い分を直接聞いたうえで、両者の溝は到底埋まらぬと痛感したゆえのコメントであった。
ただ、リスク・オフの売りの出方が筆者の想定より早い。これは、やはり中国経済成長率目標7.5%へ引き下げのサプライズが効いている。更に、スペインの財政赤字削減目標が2012年4.4%から、一方的に5.6%にまで引き上げられたことで、EU内に不信感が強まっている。ドイツもギリシャ第二次救済案は議会の過半数で通ったが、各国の財政赤字に対して、ペナルティーを科す財政均衡協定となると主権に関わることゆえ、議会の2/3の賛成が必要となる。そこでメルケル首相も野党SPD、緑の党の協力が必要になる。その野党は、緊縮ばかりではなく、歳入増加も考えよということで、金融取引税導入を唱えている。これには金融都市ロンドンが猛反対。ここでも事態がこじれそうだ。
そして4月には、ギリシャ総選挙とフランス大統領選挙が控える。
桜の季節にかけて、相場は更に下値模索の局面に入りそうだ。
なお、プラチナ、シルバーの下げが、金を上回るのは中国経済減速の影響をもろに被る産業用素材だからだ。