2012年1月31日
気温15度のリスボンから、雨季で雪予報のアテネへ深夜便で移動。
丁度、ギリシャ財政監視のお目付け役(拒否権を持つ)をEUから派遣すべしとのドイツ案がメディアに流れ、「国家主権侵害」とギリシャ側が猛反発。早速、チェックインもそこそこに通りに出て、街の声を聞いた。
ギリシャ語⇔英語の通訳役は、歯科の女医さん。
まずは、カフェに居あわせた中年夫婦に話かける。美人の女医さんが笑顔で話しかけ、キッカケを掴む。
夫はメーカーを解雇され、妻はアパレル関係の企業でリストラされ、昼から手持無沙汰でタバコを吸っている。
「今の首相は、単にメルケルやEUの意向を伝えるメッセンジャーに過ぎない。それに、いくら緊縮政策強化といっても、こっちも人間なんだから、切り詰めるにも限界があるよ。今はまだ蓄えが残っているけど、いずれ使い果たしたら、あとは生活保護所帯になるだけ。国から月500ユーロ(約5万円)支給されるけど、それにも所得税がかかるんだぜ。税引で400ユーロほどさ。夫婦揃って路上生活だけは御免だね。メルケルは人間としての尊厳より、財政規律を重んじるのかね。」
これまでも外電では読んだことのあるような発言だったが、現地で直接、強い目力で語られると、一言一言が寒風とともに沁みる。
女医さんも語る。
「このままゆくと、どこかで臨界点が来るわよ。そこでriot(暴動)が起きる。既に昨年、アテネの中心地シンタグマ広場で、3か月ほど市民の怒りの占拠運動があったの。私のボーイフレンドは、巻き込まれて眼に催涙弾をくらったわ。私もジッとしていられなくて、現場に出かけたのだけど、同行した知人の一人が、耳に催涙弾を受けて失聴してしまったの。
それでも、あれはまだ序の口。」
次に入ったのが、We Buy Goldという看板の金買い取り店。やはり、アテネでも至る所で見かける。職業上の興味もあり飛び込んだのだが、店主が「日本からはるばる」と、にこやかに応じてくれた。
ゴールドの話もそこそこに、やはり話題は経済危機に。せきを切ったようにぶちまける。
「メルケルがどう言おうと、今やキャスティング・ボードを握るのはこちらだ。我々が払えないといってデフォルトになり、一番困るのはドイツのほうだろう。
アクロポリス神殿を見たかい。改修中だろ。あれは、いよいよとなったら、究極の担保物件だからね。今のうちにお化粧直しして、担保価値上げておかねば。有事の金より世界遺産(笑)。」
その金買い取り店の隣のファッション関連ショップが、異様に賑わっていた。中は若い女性ばかり。早速、二人組に話かけたら、女子高生だった。今日は学校休校日だそうな。話しているうちに、みるみる友達と思しき子たちが取り囲む。
「ギリシャ危機?やばそうね~。でも、分からない。それより、東京ではどういうファッションがはやってるの?シブヤのガールズはクールね!」
後で女医さんと話した結論は、ギリシャ国内の二極化。
娘たちにお小遣いあげる余力のある勝ち組は、昔からの蓄えが未だ残る。企業でも一握りの勝ち組が、買収で更に事業拡大。一方、負け組は蓄えも尽き、まさにその日暮らしの危機。この格差は拡大の一途。
そして、ドイツとともに警戒されているのが中国。
「中国がギリシャの港を買い始めた」という話を3回聞いた。
確かに欧州への入り口として、地政学的には重要なロケーションである。
ロシアも静かに存在感を強めている。伝統的な南下政策として、当然の動きであろう。
ギリシャのユーロ離脱の可能性については、エコノミストは強く否定するが、選挙民レベルでは失うものがなくなったときに、極論に走りかねない危うさを強く感じた。
明日は家庭訪問などで、更に深堀り。そして旅程の最後の締めは、フランクフルト。やはりドイツ国民の気持ちも確認しておかねば。
マーケットでは、ポルトガル10年債利回りが、遂に17%突破。今回築いたポルトガル・コネクションを通じ連絡してみたが、「国の資金調達コストが、一晩で2%も跳ね上がるような何事があったというのか」という反応。今や、市場のセンチメントが国民生活をも決める時代なのか。