2012年5月24日
5月21日の本欄に「フェイスブック初日大引け、息詰まる38ドル攻防、見切り売りマネー、金に週末パーキング」と書いたが、結果的にその時点で見切ったマネーは正解だった。そしてそのマネーは「ゴールド」に長居することなく、「米国債」「独債」「円」の看板が並ぶ駐車場へ移っていった。しかし、パーキングには変わりなし。そこに車庫建てて引っ越すつもりはないようだ。果たして、逃避マネーの回遊はいつ終わるのだろうか。
さて、そのフェイスブックだが、昨日(5月23日)NY市場引け後に流れたNYSE(ニューヨーク証券取引所)のリリースが市場の話題になっている。「フェイスブック上場移管に関して、同社と一切話し合いの事実はない」という内容。システム障害への対応が遅れ混乱を招いたナスダックを見切り、NYSEに「引っ越す」のではないか、との憶測が流布されたことへの対応と見られる。本欄にも書いたが、上場初日に「売買注文確認が取れない」などの個人顧客からの苦情が相次いだ。今、問題視されていることは、初日の寄り付き時点で、障害が認識されたのに、なぜ売買取引が停止されず強行されたかという点。そこで、「NYSEなら、マーケット・メーカーへ厳格な条件を課しているので、これほどの混乱は生じなかったのではないか」(マーケット・メーカーは顧客の売買注文に対して、常に売値買値を提示することで、取引の潤滑な実行を促進する役割を持つ。このマーケット・メーカー社の資格審査やオファー・ビッドの出し方などの条件は証券取引所により異なる)。そして、ナスダックより規模・インフラが大きいNYSEなら、フェイスブックが取引所内の「鯨」状態にならなかったのでは?との「結果論」も市場に飛び交うのだ。
そもそも本欄でJPモルガン損失問題発覚第一報を5月11日に伝えたときに書いた「行内のヘッジファンド」の主役を務めていたロンドンのディーラーがCDSという流動性限定的な市場内で暴れまわったので「湖に迷い込み暴れもがく鯨」をイメージして、「ロンドンの鯨」と呼ばれるようになった経緯がある。
そこで、ナスダックで暴れるフェイスブックを見つつ筆者は鯨を想起してしまうのだ。
NYSEは即、否定声明を出したが、フェイスブック側の本音は伝わってこない。
それにしても、今回のIPO幹事会社団は手数料として1億ドルほどを得たと米国経済紙は報じている。踊らされた、或いは浮かれすぎた個人投資家にとっては、やりきれない金額であろう。主幹事会社のモルガン・スタンレーには、上場直前の同社アナリストによるフェイスブック業績下方修正、且つ、その情報が一部機関投資家に漏洩された疑惑が指摘され、SECも調査に乗り出すとのこと。既にモルガン・スタンレー株価は年初から12%下落の水準まで売り込まれている。
フェイスブック株価は昨晩やっと小康状態となり前日比3.2%高の32ドルで引けた。しかし、なんとも後味の悪い新規公開となったものだ。
さて、昨日の金価格は、ギリシャ前首相爆弾発言を引きずり、欧州時間では一時1532ドルまで急落。しかし、NY時間午後になるや、本稿執筆時点で現在進行中のEU首脳会議でギリシャのユーロ離脱阻止に関して合意するのでは、との楽観論が浮上して買い直され1560ドル台まで急反発している。(合意とか声明などだけでは実に虚しいけどね。具体的妙案があるわけでもなし。)
金価格は、この「市場のリスク」を変数として、リスクが高まれば売られ、後退すれば買われ、の展開。
この問題、昨日も色々取材で聞かれたけど、纏めとしては、長期的にみれば金は「安全性への逃避」として買われるが、短期的には経済危機が極限にまで近づくと「流動性への逃避」でマネーは米国債に流れる局面が頻発する。
この連鎖を断ち切るには、次回のFOMCで追加的金融緩和に関する示唆的表現が出ることかな。更にECB(欧州中央銀行)と中国人民銀行、そして日銀も、同時多発的に追加的金融緩和に踏み切るシナリオとなれば、金価格も再上昇軌道に乗ろう。その時は、日本株も同時に上がるだろうね。株・商品同時上昇シナリオ。エコノミスト的に見れば、過剰流動性相場で、決して褒められた話ではないが、マーケットには干天の慈雨となろう。
先週のことだが、某大学から「著作物使用のご報告」というのが来て、何事かと見れば、日経新聞電子版の「金のつぶやき」原稿が、入試問題で使われたとのこと。考えてみれば、こういう事例だと、事前承諾では情報漏えいになるものね。事後承諾が普通なのだろうと思った。それにしても、金に関する記事が大学入試問題に出るとは、社会的認知が進んだものだ。素直に良いことだと思う。
それから、先週は英フィナンシャル・タイムズ紙が、日本の年金、金投資開始と派手に書きたてたもので、横並び意識の強い日本の機関投資家の金勉強会みたいのが更に増えてきた。関連公的機関の「内部研修会」にも呼ばれている。そこで、機関投資家のディーリング・ルームやアナリストのデスクに置かれているブルームバーグのプロ仕様画面にToshima & Associatesとしてページを設定して、ボチボチ情報発信始めた。今後は、特に、金の投資媒体としてのリターン・リスク計数的評価などのスタディーを紹介してゆきたい。
本ブログ読者にも実は機関投資家が少なくない。よく訪問先で「ブログ読んでます」とか言われる。ブルームバーグ設置している読者なら、総合検索でNH GLD、或いはリサーチの検索でGLDのキーワードでToshima & Associatesのページが出るよ。