豊島逸夫の手帖

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オリンピックにプラチナ・メダルがあったら

2012年7月31日

最近はプレミアム価値の象徴として、一般的に使われるプラチナという言葉。プラチナ・カードはゴールド・カードより格上のステータスを意味し、プラチナ・バンドは電子通信の用途において、特に良質で価値の高い帯域を指す。
しかし、オリンピック・メダルにプラチナはない。
プラチナは20億年も前に巨大な隕石の衝突によって誕生したと言われているが、プラチナの価値を人々が知るようになるのは18世紀に入ってのことなのだ。古代エジプトで僅かに宝飾品として使われていた例があるが、プラチナと知りつつ使用していたわけではない。16世紀にスペイン人が南米でプラチナを発見するが、金より融点が高く融けにくい白い金属を「小粒の金=プラチナ」という蔑称で呼び、扱いにくい粗末な金属として川に投げ捨てていたという。それが18世紀に入るや、鉛にプラチナを混ぜると金のように見えることから錬金術師が好んで使う金属となった。そしてフランスのルイ16世が「プラチナこそ王にふさわしい貴金属である」と宣言して以来、「セレブの象徴」としての地位を確立してきた。
従って、プラチナは歴史が浅い貴金属ゆえ、オリンピックの勝者に与えられる素材としても使われてこなかったのであろう。
更に、現在のプラチナ生産は南ア(南アフリカ共和国)一か国にかなり偏在しているので、政治リスクを孕む素材だ。特に、南アでは人種差別(アパルトヘイト)の歴史が長く、南ア産の輸出品に制裁的禁輸措置が課せられた時期もあった。


さて、そのプラチナが金より安いという価格逆転が長引いている。
直近では金が1620ドルに対し、プラチナは1410ドルと価格差が210ドルにまで拡大した。
世界的景気後退懸念から主として自動車排気ガス清浄化触媒を需要の要とする産業用素材としてのプラチナは売られるが、不況に強い金は一ヶ月ぶりの高値水準を回復している。
今回の価格逆転現象は、単なる投機マネーの悪戯とは言い切れない需要構造というファンダメンタルズに根差すので、一過性とはいえないのだ。
米国が「財政の崖」から立ち直り、欧州債務危機が解決しなければ、この逆転現象も解消しまい。
単なる珍現象の域を超えて、定着の傾向が見られると、プラチナ・カードの有難味も薄れ、ゴールド・カードに比し格下げされてしまうかもしれない。プラチナ・バンドがゴールド・バンドに名称変更されることまではないとは思うが。
そして、オリンピックにプラチナ・メダルがあったら、二位のゴールド・メダルの価値のほうが高いという事態になっていたであろう。
とはいえ、現在のゴールド・メダルも金とは名ばかりで、92.5%が銀で出来ている。金の含有量は僅か1.34%。オリンピックの取り決めでは最低6グラム(3万円弱)の金を使うことが条件とされている。
今回のロンドン・オリンピックの金メダルの価値は、現在の金銀相場で換算すると、約640ドル。うち、金の価値が305ドル、銀が335ドルとなる。重量は412グラムで、夏季オリンピックの金メダルとしては最も重いそうだ。前回の北京オリンピックの金メダルは200グラム。現在の金銀価格だと257ドル相当の価値であった。
次の2016年リオデジャネイロ開催の時に、果たして金プラチナ価格はどうなっているだろうか。
景気も回復基調を辿り始め、BRICs政府の公的金準備増強傾向は加速し、金もプラチナも仲良く2000ドルくらいかと筆者は予想している。

2012年