豊島逸夫の手帖

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尖閣解決のカギは日印同盟

2012年10月4日

「この会合は、米国、日本、インドによって中国を抑え込むための政治的および外交的手段を模索するためのものである。この3か国の組み合わせは新たなものだ。インドはアジア太平洋地域との結びつきがそれほど強くはない。会合にインドが参加したことは、中国にとって複雑な状況が構築されていることを物語っている。」

「この会合」とは、昨年8月に米国の戦略国債問題研究所が主催した日米印の専門家による非公式レベルの会議のこと。冒頭に引用した発言は、その模様を伝えるボイス・オブ・ロシアの記事に出たロシア科学アカデミー極東研究所のルズャニン副所長のコメントだ。会議は「中国の成長が三カ国全てにとって共通の懸念材料である」との立場で合意したとのこと。
この会議に先立ち同8月にも、「アジアで高まる中国の軍事・政治的役割」を主要テーマとして日米印の外務次官レベルによる会合がワシントンで開かれている。
同月には、「中国がGDPベースで日本を抜いて世界第二位になった」ことが大々的に報じられていた。筆者は、たまたま、その時期に金融関係者との会合で北京にいた。さぞかし中国側の鼻息も荒かろうと臨んだのだが、意外に冷めていた。寧ろインド経済のほうが気になるという意見が多かったのだ。

「尖閣問題を見よ。中国の平和台頭は表面だけだ」
これは2010年12月22日のインド紙「ザ・タイムズ・オブ・インディア」の論説記事で、その後、中国側メディアが「大げさな中国脅威論」と猛反発した。

中国が抱える領土問題で中国側が「絶対譲れない」とする最大級の案件が「中印領土紛争」であろう。カシミール地域はもとより、タワングというチベット仏教の聖地が、'51年の中印国境紛争時にインド軍により占領されて以来インド領となり、チベット少数民族問題に手を焼く中国政府にとって目の上のたんこぶになっている。チベット仏教の指導者ダライラマ14世も、インドに亡命したまま中国との対決姿勢を鮮明に打ち出している。
そして、水の問題。
北インド地域を潤すいくつかの大河はチベットが源流である。そこに中国は巨大なダムを建設して中国側の農地への水流誘導を図る。古今東西、水の取り合いは領土問題の火種だ。

この中印の複雑なもつれを巧みに利用して、アジアの微妙なバランス・オブ・パワー維持を図ってきたのが米国。
インド包囲網を敷く中国に対して、米国は中国包囲網を築いてきた。米国はインドを核保有国として認知し、米国からの核技術、核物質の移転を解禁している。
一方、中国はパキスタンへの最大の武器輸出国となりインド側の神経を逆なでする。
とはいえ、米中も「仮面夫婦関係」を維持せざるを得ない。なにせ、中国は米国債を最も多く買ってくれている「お得意様」でもあるからだ。
そこで、「米国債セールス」もかねてオバマ大統領が北京を訪問し、胡錦濤主席が、ことさらに仲の良さを見せつけるような盛大な歓迎行事を催せば、その翌週に、間髪入れずインド首相がワシントンを訪問。オバマ大統領も国賓待遇の扱いで答える。
かくのごとく、世界の外交舞台では、米中印の三カ国が、「恋のさやあて」を演じてきた。
そこに日本はといえば、実質的に「蚊帳の外」であった。
しかし、尖閣問題が先鋭化し今こそ、対インド関係の緊密化を図るべきではないか。そもそもインド人の対日感情は「親日」とまでは言い切れぬが、悪くはない。日印間に領土問題は存在しない。中国が脅威という点では一致する。大停電で露呈したインドのインフラ不足に、日本が貢献する余地は充分にあろう。

マクロ経済的には、インド経済の落ち込みのほうが、中国経済減速より厳しい。金の世界で、今年に入り、長らく金需要国第一の座にいたインドを、遂に中国が追い抜いたことも象徴的な出来事だ。筆者も金関連でインドとの接点も多いのだが、なかなかしたたかな人たちではある。しかし、日印の戦略的互恵関係の重要性もヒシヒシと感じている。

なお、10月20日予定の大阪での出版記念自主セミナーは、セミナー繁忙期らしく、場所が取れず。改めてお知らせします。

2012年