豊島逸夫の手帖

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ギリシャ ユーロ脱退観測で金価格1600割れ

2012年5月9日

金価格が急落。昨日のNY市場では一時、1600ドルの大台を割り込んだが、本稿執筆時点(日本時間朝5時)では1607ドルまで戻している。
週末のフランス・ギリシャ総選挙直後は金価格の反応も限定的であったが、一日置いた「時間差攻撃」で、NY金先物市場の投機筋がリスクオフの波に乗り、空売り攻勢で当面の下値抵抗線とされた1625ドルを突き破った。大量のセル・ストップ(損失限定のための売り)が発動され一気に1600ドル割れまで急落したわけだ。
マクロ要因としては、ユーロ売りの結果としての(相対的)ドル高が効いている。ギリシャ情勢も、総選挙で二大政党敗北までは「織り込み済み」であったが、新たな連立政権交渉が纏まらず、数瞬間後に再選挙の可能性が浮上したことは、マーケットにとってサプライズ。更に、ユーロ離脱を声高に唱える有力な政治家の発言がメディアを通して流れ、改めて、ギリシャ政情不安の泥沼化を印象づける結果となった。
金を除く商品セクターは、欧州選挙直後から売り込まれて、金だけが持ちこたえていたが、昨日は金も遂にコモディティー売りの波に乗りこまれた感も強い。

さて、気になる今後。
筆者のスタンスはこれまで弱気であった。連休中に発売された日経ヴェリタスの「相場を読む」コーナーではレンジを1570-1670としていた。連休直前の取材時に1665ドルだったので、かなりの弱気だったといえる。しかし、ここまで下がると徐々にスタンスを強気にギアシフト中である。
特に筆者が注目する要因が、新興国中央銀行による外貨準備としての大量の金買い。本欄4月25日付け「金1600ドル割れを阻止した新興国中銀マネー」に詳述したが、3月にも金価格が1600ドル近くまで急落したとき、メキシコ、ロシア、トルコ、カザフスタンなどの新興国が40トン以上の金準備増強に走っていたことがIMF統計により確認されたのだ。
その背景は米ドル、ユーロへの不信感であるが、その基礎的状況は今回も全く変わっていない。

そして、インド、中国。
経済減速で、明らかに下値サポートの新興国買いが湿っている。昨年は1700ドル台でもかなり買いを入れたが、今年の買い出動の目標レンジが1600ドル割れにまで切り下がっている、との現地からの情報である。この二か国の買いの年間総量も昨年の1700トン前後から今年は1500トンにまで減少しそうだが、それでも年間金生産量2800トンの半分を買い占めることになる。

なお、短期的にはテクニカルは悪い。相場の頭が徐々に切り下がっており、相場のカタチは良くない。ここに投機筋が空売り攻勢をかける理由がある。相場の下へのモメンタム(勢い)で1500ドル台で下値を試す状況は十分に考えられる。しかし、空売りが急増するということは、早晩、買い戻されるという意味で、市場内には買いのエネルギーが徐々に蓄積されることになる。このエネルギーが噴出するところが相場の底となろう。その時点ではV字型の急反騰となる可能性がある。
短期は乱高下の警戒モードであるが、長期は、米国QE3と欧州版QEの競演シナリオが年後半には考えられる状況ゆえ強気に見ている。

2012年