豊島逸夫の手帖

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4月危機説の根拠

2012年4月2日

人気歌手ポール・サイモンは「ニューヨーカーの最大の贅沢。それは5月に休みとって人生を楽しむこと」と言った。
そこからNY市場では、「"Sell in May and go away "(5月には相場など売って、人生を楽しもう)」という相場格言めいた表現が毎年使われるようになった。
実際、NY株式市場でも毎年この時期になると、5月に売って9月に買い戻す戦略が語られる。
しかし、今年に限っては市場が先読みして、4月には動きそうなので、"Sell in April"という言葉が欧米市場関係者の間で流れている。
その根拠がギリシャとフランスの選挙。
ギリシャ総選挙は、5月初旬実施の方向で動いている。
趨勢は、反緊縮をマニュフェストに掲げる野党各党の躍進ぶりが目立つ。与党側でさえ、人民迎合的な傾向が見られ、国民に更なる痛みを課す緊縮政策の見直しを唱える声も出始めた。
そこで新たな連合政権が誕生し、レ―ム・ダックのパパデモス現首相が合意したギリシャ第二次救済案は「再交渉」とするシナリオが現実味を帯びてくるのだ。
ギリシャ救済合意時の現地新聞に躍った「我々の粘り勝ち」という見出しに、「これで延長戦に持ち込んだ」とのギリシャ人の本音が透けて見える。
そして今月にはフランス大統領選挙が控える。
現職サルコジ氏と対抗馬オランド氏が大接戦。オランド氏の反メルケル色に、仏国民の抱く漠としたドイツ主導への懸念が共鳴している。メル・コジ関係は「仮面夫婦」と揶揄されつつ、ギリシャ救済を協力してまとめ上げた。その救済側の枢軸に亀裂が入ると、これまた由々しきこと。危機感を募らせたメルケル首相はパリに乗り込み、サルコジ応援演説まで買って出た。隣国の大統領選挙への介入とも見られる前代未聞の事態に、メルケル首相の焦りがこれまた透けて見える。
欧米市場では4月半ば以降、債務危機関連の材料が再燃必至の情勢だ。
既に、スペイン国債の利回りが上昇。財政均衡を目指す緊縮政策のデフレ効果が歳入の減少を招く「負の連鎖」が顕在化している。
スペイン、イタリアへの「火事の延焼」を防ぐ「防火壁」と言われる「欧州安全網」も、市場が期待していた1兆ユーロ規模の実質半額で合意された。
日本では、新年度入りの4月相場は早々に、欧州債務危機再燃の洗礼を受けることになりそう。
筆者も今月中旬に、再び現地欧州に飛ぶ。

2012年