2012年8月9日
シンガポールには華僑や印僑が多く、中国経済とインド経済の影響が交錯する新興国のミクロ・コスモ(小宇宙)だ。
特に、リトル・インディアと呼ばれるインド人街が、筆者の定点観測の場になっている。インド経済の生情報も豊富だ。ゴールド・ショップも並ぶので、金需要を計るバロメーターともなる。
今回の訪問では、インド国内の降雨量が少なく干ばつによる不作で農家の収入が急減しており、同国金需要の減少要因になっていることを確認。中国の金需要が底堅いことと対照的だ。華僑は元気良いが、印僑はうつむきがち。
更に、話題はインドの大停電。
同国のインフラ不足という根が深い問題が露呈した。
直接の原因は、送電網不足と老朽化。送電中のロスが多い。そして電力需要が特定の州に偏り、配電システムに過剰な負担がかかり、ダウンしてしまった。
しかも、背景が複雑だ。
まず、インドは石炭火力発電が主なのだが、国内石炭生産が需要に追い付かない。結局、高価な輸入炭を増やさざるを得ない。
しかし、コストアップをそのままユーザーに転嫁はできない。電力料金は手厚い国家補助で低水準に抑えられ、その引き上げは直ちに政治問題化する。
おまけに、電力を買い取る州の電力機構が、長年の放漫経営体質で、破たん寸前の状況だ。電力会社への支払いも遅延、そして支払不能のケースも。
電力会社は、石炭不足で稼働率は低迷。州の電力機構からの収入も滞りがち。金利高止まりで銀行融資返済も苦しい。(マクロ的には物価上昇高止まりで金融当局の利下げ余地が限定的。)
そのような電力業界だが、国家的電力不足解消という切迫したニーズから、新規メガ発電所建設に大手財閥経由で巨額のマネーが投入され、それらに不良債権化の恐れが生じてきた。
巨額融資なので、インド版サブプライム危機か、などとメディアでは報じられている。
資源問題、官僚体質、そして信用不安も孕み、インド経済の弱点が、大停電で一気に噴出した感さえある。
日本に負けずとも劣らず政治混迷の国ゆえ、舵の切り方を間違えると、失われた10年の道にはまりかねないリスクを感じた。