豊島逸夫の手帖

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ポルトガル ― 正直者は馬鹿を見るのか

2012年3月9日

ギリシャ国債民間保有者の債務削減交渉の進展を、複雑な心境で見守ってきた国が"ポルトガル"と"アイルランド"。
自分たちはEU提示の条件を受け入れ、血の滲むような緊縮努力を続けてきた。市場も「殊勝である」として好意的な態度。国債利回りも下がってきた。
一方、自分たちより遥かに巨額の借金を積み上げたギリシャの借金は7割棒引きされる。
「正直者が馬鹿を見る」のでは納得できない。「次は我々の国債も棒引きを」との声が既に強まっている。
これに対し、メルケル首相は「ギリシャは例外」と突っぱねてきた。債務削減により当面のギリシャ火事は何としても消火する。しかし、スペイン・イタリア両国への延焼を防ぐ防火壁(十分な救済資金)構築の目途が立てば、ドイツ国民感情を考慮せざるを得ず、ギリシャ火事消火作業からは身を引く、という但し書きつきであろうか。

既にアイルランドでは、国内緊縮策に欧州景気後退のダブルパンチで今後の経済動向には再び黄信号がともり、早速、「我が国にも救いの手を」との声を高めている。
ポルトガルにしても、緊縮の手を緩め、借金を膨張させれば、紆余曲折はあろうが、いずれギリシャの如く借金棒引きされると考えても不思議ではない。モラル・ハザードが蔓延せねばよいが。

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リスボン市内にて。ポルトガルの寛容はどこまで続くか。

マーケットは株も商品も、第二次ギリシャ救済協定合意直後同様に、暫時安堵感が流れ、再びリスク・オンの買いとなりつつある。
金価格も、前回は「ギリシャ救済プレミアム」で1800ドルに接近したが、今回は戻しても1750ドル程度か。前回と今回と異なることは中国要因。目標経済成長率が7.5%にまで引き下げられた負の余韻が、未だ市場には残っている。
米QE3に関しては、今晩の雇用統計で予想通り良い数字が出れば、QE3後退と解釈されるはずだが、昨日(3/8)本欄に詳述した新型QEがFRB内で検討されているとすれば、相場的には大きな動きにはならぬやもしれぬ。新型QEに関しては、あくまで報道のみで、当のFRBは音なしの構えだ。深読みすれば、敢えてリークすることで、雇用統計が良くでも、QE後退とするは早計との市場へのアナウンスメント効果を狙ったのであろうか。
市場の潮流としては、4月(或いは5月初旬に延びる可能性もあるが)のギリシャ総選挙、そしてフランス大統領選挙を控え、再び、欧州発のリスク・センチメントに振れるは必至である。
Sell in May and go away (気候の良い5月には売って相場のことは忘れ人生を楽しもう、という相場格言)という流れになりそうな雲行きだ。

2012年