2012年3月1日
昨日欧州市場オープンの時点では、金価格が一時1791ドルまでつけ、1800ドル接近の様相であった。ECB(欧州中央銀行)が昨年12月に導入した、"金利1%で3年物無制限資金供給"(LTROと呼ばれている)の2回目入札が昨晩実行されたからだ。債務危機対策として、"民間銀行間取引金利"と"南欧国債利回りの低下"という一石二鳥の効果を持つが、基本的に「時間を買う政策」でもある。
金市場は、この新政策を「実質的量的緩和=欧州版QE」とみなし、「刷れるユーロ、刷れない金」という材料をテコに、1800ドル寸前まで買い上げていた。
そして2回目入札の結果発表。
1回目を上回る800の金融機関から、5295億ユーロ(約57兆円)の資金供給要請があった。
その直前まで1790ドル台を突破していた金は、一転売られ始め、1780ドルを割る場面も。典型的な「噂で買い、ニュースで売り」のパターンである。トレーダーの常套手段で、筆者がスイス銀行チューリッヒのディーリング・ルームで、最初に叩きこまれたことでもある。
しかし、本当の下げは、その3時間後。
米国議会下院金融サービス委員会における、半年に一回のバーナンキFRB議長の議会証言の途中から、金市場が激しく反応した。
市場が期待していたQE3(追加的量的緩和第3弾)に関する具体的な言及が、いつまでたっても出てこない。QE依存症に陥っていた金市場が焦れて、禁断症状の発作を起こしたのだ。
金価格は1780ドル台から1720ドル台まで一気に暴落。
失望売りに、ストップ・ロスの売りも重なり、下げが加速した。
本稿執筆時点(日本時間朝6時)で、1690ドル台まで下落している。
筆者流に言えば、以上が虫の目(現場を見る目)で見た昨晩の値動きであるが、魚の目(潮流を見る目)で見れば、ギリシャデフォルトが当面回避されたことから市場に安堵感が流れ、リスク・オンに転じたことで生じていた金価格プレミアムが剥落したに過ぎない。本欄2月24日付け「ギリシャ4月再危機急浮上」に書いたように、欧州債務危機の長期化は必至だ。金価格もギリシャ救済合意前の水準に戻ったわけだ。
個人的な相場観としては、2月25日付け日経本紙商品面記事「金、3か月ぶり高値、1800ドル台に近づく」との記事中で、一人弱気コメントを出していたので「当然の調整」と感じている。
ここからは、安値拾い(バーゲンハンター)のインド・中国など、新興国の現物買いが入るは必至。NY発の先物買い主導で相場が過熱しているときに、彼らは音無しの構え。それが一転、先物売りで急落すると、待ってましたとばかりに買いに入る。要は、短期値幅取りを狙った投機買いが売る時は、長期保有主体の新興国現物投資家にとって買いのチャンスに映るのだ。これを筆者は「米中ゴールド・ウオ―ズ」と呼んでいるが、この米中戦争に関する限り、近年は中国の連勝が続いている。
鳥の目(俯瞰する目)で見れば、日米欧中の金融緩和傾向は変わらない。欧州債務問題も、短期的にはリスク・オフで売り材料にもなるが、基本的に経済が不安定な状況下では、マネーが実物資産に流れる傾向にも変わりはない。新興国経済が減速中とはいえ、民族DNAとして金選好度が高い中国人・インド人の金買いは、相対的に所得弾力性が低い。
なお、円建て金価格は円安進行の分だけ、下げが相殺されている。円高が、円建て金価格の下げを加速した時と対照的な動きだ。