豊島逸夫の手帖

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おあずけ

2012年8月6日

本稿は成田空港ラウンジで書いている。
シンガポールへ出張。空港は出張客より夏休み客で混雑。
シンガポールでは日経ムック用のジムロジャーズ対談と新興国経済減速の感触を探る。この一年で5回目のシンガポール出張&ジム対談であるが、筆者が定点観測の場所として決めているスポットは、市内のリトル・インディア。通りに並ぶ金宝飾&両替店でも一つだけ毎回訪れる店があり、そこの店長とも顔馴染みになった。
インド経済は年換算経済成長率が6.5%にまで落ち込み(先進国から見れば羨ましい数字だが)、干ばつで農家の収入は減り、おまけに大規模停電というインフラ不足を露呈し、中国に比し、明らかに劣勢。金の世界でも中国の金需要は底堅いが、インドは昨対で減少。今年は、金需要国世界一の座を遂に中国に譲る事態となりそう。両国とも年間金需要量800トン台の争いである。これまでは、ざっくり言って、インド1000トン近く、中国は500トンくらいであったが、この2年間でインド↓中国↑のトレンドが加速した。オリンピックのマラソンの如く、失速すると、ズルズル落ちてゆくね。中国は、たしかに経済減速、物価上昇鎮静化が効いているものの、なんといっても、規制緩和特需による増加分のほうが多い。対するインドは、金に関する規制緩和が1990年代前半で完了している。

さて、先週の三大イベントが終わり、結局、金価格は1600ドル前後で水準変わらず。
米国の金融政策を決めるFOMC(公開市場委員会)では、QE3(追加的金融緩和第三弾)への明確な言及はなかったが、エースカードは9月まで温存との見方が根強く残る。
ドラギECB総裁は、ユーロ安定のために何でもやると先々週に明言したものの、ECB理事会後の記者会見ではMay be の表現に変わり、それでも、数週間以内には具体的計画を明らかにするとも発言。
要は、今回は、マーケットが「おあずけ」を食った格好だね。
全ては夏休みが明けてからか。
先週のイベントのトリの米国雇用統計は事前予想より好転。
そこで、マーケットはリスク・オン・モードになり、株も商品も買われた。ドル安傾向も顕著。
雇用統計のような米国マクロ経済指標への反応だが、株も金も、良ければ、QE3への切迫感が薄まると解釈され売られるケースもあれば、今回のように、買われるケースもある。
マーケット参加者のポジションにより、「いいとこ取り」されるみたい。
だから、筆者も、短期的な動きには、あまり振り回されないように意識しているのだ。
世界的金融緩和傾向は変わらず。

2012年