豊島逸夫の手帖

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現地で感じた領土問題

2012年8月27日

25日土曜日に開催された上海貴金属セミナーのため、週末は上海で過ごした。
反日デモが高まる中、中国人個人投資家500名が応募してきたセミナーで、日本人講師が講演するという設定になり、主催者側も旅行者保険をかける異例の措置。特に、今回は「日本からの専門家によるレクチャー」を謳って告知したという。
さて、蓋を開けてみれば、応募500名に対し参加400名で、業界風にいうと、歩留まり8割。通常6割が普通なので非常に良い数字とされる。
また、質疑応答では日本関連の質問が集中した。
それは領土問題ではなく、「日本人はなぜ金を売るのか」、「円高はどこまで続くのか(他人事ではない様子)」、「日本の債務危機は?」などなど、日本経済や日本市場に関連する事ばかり。
「マネーの世界に領土問題はない」ことを実感。
質問に答える度に、会場から拍手がわく、とても和やかな雰囲気だ。

会議後の円卓を囲む夕食会では、北海道が中国人の人気スポットになっているという話題で盛り上がった。
なぜ北海道なのか尋ねれば、「広大な風景」。それなら中国国内にいくらでもあるではないか。「いや、富良野のお花畑みたいに整備されたキレイな光景はない。」
ちょっとした告白も。40歳前後の反日教育を強く受けた世代の男性。「実は、私は日本が嫌いだった。でも、妻がテレビのドラマで見て、是非行きたいというので、しぶしぶ付き合った。札幌でレンタカー借りようとしたら、外国人は手続きが難しい。それみたことか、と思っていたら、紹介された日本人が自分の健康保険証で身分保証をかって出てくれた。ほかにも滞在中、色々な場面で困っている旅行者を助ける日本人に会って、すっかり見方が変わった。領土問題は譲れないが、日本人が嫌いではない。」
領土問題に限らず、中国人との付き合いは、どんな反論であっても、主張すべきところは主張しないと、交渉相手とはみなされない。力で封じ込める対象とされる。
更に、子供時代から、反日教育を受けている。しかし、日本人に直接触れて、好意的に転じる例も多い。
ステージから見る400人の中国人投資家の目に敵意など全く見られなかった。これは、その場にいないと分からないことだ。
また、週末の上海でも反日デモは殆ど見られず。
しかし、中国国内全体を見れば、いくつかの都市で反日デモは起きている。それらの共通項は、低所得者不満のうっぷんの捌け口になっていること。
大本営発表型の新聞も、竹島問題についての記事を読むと、「日本側の強硬な姿勢に韓国側も反発」という論調だ。
これから反日デモも激化すると思う。
しかし、経済の世界で日中関係悪化を望む人などいない。
日中領土問題解決の有効且つ現実的な解決策は、ひとつしかない。中国経済減速が止まり、景況感が好転して、雇用が増えることだ。
中国は未だ経済政策の懐が深い。財政赤字も先進国に比し危機的状況とはいえない。金利は3%台。ゼロ金利ではなく、利下げの余地がある。財政金融両面で思い切った経済政策が発動されれば、低所得者層の不満も和らぐであろう。
北京の奥の院の「長老たち」が最も嫌うことが、人心不安定である。
雇用、物価高、福祉、医療、環境。それぞれの分野で、デモ活動は起きている。領土問題もその一つだ。
いま日中関係を荒立てることは、どう見ても、中国経済にプラスにはならない。低所得者層の不満のはけ口にはなっても、その不満の解決策にはならない。それを最も強く感じているのが、北京の党幹部たちではないか。
あとは、ふりあげた拳の落としどころを探るメンツの問題だ。

会議後にいただいた月餅。中国では9月の中秋の月餅のプレゼントは日本のお中元みたいな習慣。今年の月餅の特徴は、「有機面粉」とか「健康材料」とかの謳い文句が目立つ。カロリーを意識してか(二個食べれば、かつ丼一杯分程度になる)、小さめでブランド化した月餅も人気のようだ。職業柄、貴金属ショップも定点観測しているが(経済減速を感じさせない賑わいの中で)、顧客のウエアがシンプルなれど、ユニクロ風にあか抜けてきた。消費の質志向は着実に進行している。

まったく話は変わるが、セミナー会場となったホテルの一階に、なんと、北朝鮮国営のクラブがあった。よろこび組風が、お客様は将軍様とばかりにもてなす場のようだ。

さてさて、上海出発の金曜日が、9月10日発売日経金ムック本の校了と重なり、徹夜の連続で、そのまま羽田発上海便に直行した。
怒涛の10日間が終わり、今日はセミの抜け殻状態。

以下、上海での写真。

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上海貴金属セミナー講演後のパネルディスカッション風景。


左から3人目が筆者(演題は「貴金属市場の現状と見通し」)。4人目が、池水雄一スタンダードバンク東京支店長(演題は「裁定取引の実務」)。

あとは中国人講師たち。
日本黄金第一人とか、高級黄金分析師(シニア・ゴールド・アナリスト)などの紹介文の中国語に思わず笑い。

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会議後の円卓を囲む夕食会

名刺を整理していたら、凄い肩書で笑えるのがあった。
「中国予測国際金融危機第一人」
名刺の裏には、「2005年7月予測黄金大牛市、2006年1月予測美国金融危機、2010年初予測主権債務危機・・・」
大牛市は"ビッグ・ブル・マーケット"つまり"大上げ相場"。
美国は"米国"。
いるんだねぇ・・・こういう人って・・・。
それから中国のヘッジファンドも何人かいたよ。

なお、今朝の朝日新聞朝刊東京版10面(社説対抗面)、15段金広告の中の5段解説記事で筆者の初心者向け説明あり。

2012年