豊島逸夫の手帖

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ドイツ主導かドイツ支配か、強まる対独警戒感

2012年2月2日

ポルトガル、ギリシャを訪問し、現地の生の声を聞いてきた今回の欧州出張。ここまで「借り手」の言い分を聞いたからには、「貸し手」の本音も聞かずばなるまい。ということで、旅の締めはフランクフルトとなった。
当地に来ると、この両者のそもそもの発想の違いを見せつけられる。
ギリシャ側はこう考える。
欧州地域共通通貨を創設するから参加しないかという話が来た。ドイツやフランスがユーロを支えるというし、自慢じゃないが放漫財政の国にとって悪い話ではない。寄らば大樹の蔭。ギリシャ経済のアラが表面化しても、一蓮托生となれば、独仏が救済資金を入れて、立て直しを図るだろうと読んだ。そして蓋を開けてみれば、独仏は国内融資先が細る民間銀行を動員して、欧州周辺国に新たな投資先を拡大した。しかし、南欧債務危機に発展するや、そこに巨額のカネを入れた自国の銀行を救済するために、更に南欧へ救済資金を入れねばならぬという悪循環。挙句の果ては、ギリシャは懲りない国だから、現地にギリシャ国家予算作成に対して拒否権を持つ「コミッショナー」を派遣するぞと脅して、ギリシャにドイツ化を露骨に強いる。冗談じゃない。ユーロ発足当時のマストリヒト条約で、財政赤字GDP3%以内というルールを作っておきながら、真っ先に破ったのはドイツだろうが。
ところが、ドイツに来てみれば、話が全く違う。
そもそもは、欧州全体が統一通貨で纏まろうという気運が強まる中で、弱小国ギリシャが取り残されるという不安を露わにするから、しょうがない、仲間に入れてあげたのだ。ところが、案の定、ギリシャの経済構造改革計画は遅々として進まず。財政赤字削減案にしても、ギリシャ国内の政治混迷の中で、一向に前進しない。ギリシャ救済資金の必要額は膨らむばかり。そこでアテにされるのは、ドイツの財布。ドイツ国民が払った税金だ。これではメルケルも、ドイツ国内を纏められない。最終的にはEU協定に明記してまでも、ギリシャを監視して、ペナルティーを科す骨組みを作らねばならぬ。我がドイツは、他国に先駆け硬直した労働市場の改革を実施して、国内経済を立て直した。このようなドイツ国民に痛みを課す政策を、敢えて実行したのだから、施しを受ける側の国は、その倍以上の痛みを伴う緊縮政策を自ら課し国民も耐えるべき。
この両者の溝は到底埋まらぬ。
そして、筆者がアテネからドイツに移動するあたりから、欧州内では、ドイツ警戒論が俄かに強まっている。
最も象徴的な出来事は、メルケルが、大統領選挙戦で苦戦が続くサルコジ陣営の応援演説を買って出たこと。EU団結を訴えるスピーチならともかく、他国の国内問題にしゃしゃりでる態度は、欧州諸国の歴史的対独警戒感に火をつけた感がある。
ギリシャに拒否権を持つ財政監視官を派遣するという構想も、「国家主権侵害」と受け止められても文句は言えまい。
アイルランドでは自国予算案の骨子を、自国国会議員より先に、ドイツ側に内容を開示したことが問題化している。
そして、EU加盟27か国に均衡財政義務付ける新条約が合意されたときのメルケルの勝ち誇ったような笑顔も印象的であった。要はドイツ並みの財政規律を、他国にも課すことが承認されたわけだ。
この一連のドイツの出方は、ドイツ主導というより、ドイツ支配を連想させる。
これまで、ドイツはあまり表面には出たがらず、マイ・ウエイで自国経済強化にひたすら邁進してきた。「戦争の賠償も十分にしてきたことだし、もう、ほっておいてほしい」という感じであった。それが、一転、域内積極介入政策に。
日中の気温も氷点下の凍るフランクフルトであるが、周辺国から吹く風も、徐々に厳しくなってきたことを現地で感じている。

2012年