豊島逸夫の手帖

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QE4も視野に

2012年9月14日

住宅ローン担保証券(MBS)を毎月400億ドル買い取り続ける。終了期限は設けず。雇用指標の持続的な改善が確認できるまで続ける。(オープン・エンド型QEと言われる所以。FRBがQE実施期間と雇用指標を直接リンクさせた初めてのケースだ。)
それでも効かなければ、更に追加的金融緩和も否定せず。その場合は、買い取り対象の証券を社債などに拡大することも考えられるのか。そこで市場筋では、「なりふりかまわず何でもやる」という意味の"kitchen sink policy"という言葉で早くも揶揄されている。動かせない台所の流し以外のものなら何でも、冷蔵庫でも皿洗い機でも買い取るのか、というココロである。米国経済が「財政の崖」を転がり落ちるような事態になった場合の「有事対応」も辞さずとの決意表明と筆者は読む。
財政政策が万策尽きた今、金融政策面で出来ることは何でもいつまでもする、という強い決意を市場は素直に歓迎して、株・商品総上げの「過剰流動性相場」の様相だ。
「"雇用が本格的に良くなるまで続ける"とは、具体的な失業率の目標数値があるのか」と事後の記者会見で問われ、「それはない」と否定している。しかし、失業率の見通しは明示している。

2012年 8.0-8.2%
2013年 7.6-7.9%
2014年 6.7-7.3%
2015年 6.0-6.8%
長 期 5.2-6.0%

この見通しに沿えば、まず、2015年の6%台という数字が最も現実的な政策目標値らしく筆者の目には映る。今回、金融引き締めへの転換期を2014年から2015年にまで延長していることとも一致するであろう。
仮に、2014年まで2年間24か月続けるとすれば、今回のQE3投入額は9600億ドルと、ほぼ1兆の桁に達する。新著「不安を生き抜く金読本」63ページのQE1・QE2のグラフにある点線のQE3が実線になることが確実になった。
学者時代に景気が悪くなれば、ヘリコプターからドル札をばら撒けばよいと発言した記録から、「ヘリコプター・ベン」と仇名されるバーナンキ氏の「面目躍如」たるFOMCそして記者会見であった。

さて、金価格は一時1775ドルと今年2月29日以来の高値まで急騰。ジャクソンホール→ドラギ南欧買い取り発表→米国雇用統計(8月)悪化と三段跳びで上がってきたが、昨晩は更に4段目の跳びとなった。
さて、問題は、ここまでQE3期待で買われたポジションの落としどころ。いつ利益確定の売りに出るか、ということだ。
ここで反応は真っ二つに分かれよう。
決算期のあるファンドは、目先の利益確定に走りたいところ。噂で買ってニュースで売りが常道だ。ギリシャからは26日にゼネストなどのニュースも入っている。欧州発のリスクオフ売りに巻き込まれる状況も十分に考えられる。その前に逃げたいという気持ち。
対して、決算期のない個人投資家は、QE4も視野に、じっくり持つ余裕がある。
そうなると、一時、利益確定の売りで下げようが、それが一巡したところで買い直され、1800ドルを試す展開と見ている。
長期的には、金市場の高値圏維持が2014年から2015年までは続くと、FRBが暗黙に認めたようなものと読める。そのプロセスで、2000ドルという数字も現実味を帯びてきた。

さて、話は変わるが、日中関係を心配している。
かなりヤバいと思う。連日の国営テレビ、新聞の一面トップ扱いで中国人の民意が反日で結束している。当局もデモ容認の姿勢だ。
今年の中国出張は、もう無いなと感じている。
アジアの中で日本だけがいつまで突出した生活水準を維持できるのか。地政学的問題をキッカケに日本人の多くが自問自答し始める時期であろう。

最後に、丸善オアゾの出版記念講演会は、出版4日目で整理券の残りがあと数枚まで来たとのこと。華やかなセミナーになりそう。まぁ、楽しくやりましょ。

2012年