豊島逸夫の手帖

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サンディに飛ばされた日銀

2012年10月31日

2か月連続の追加緩和に貸出支援基金創設のオマケまでつけた、日銀精一杯の大盤振る舞い。しかし、米国FRBの無期限QE∞、欧州中央銀行(ECB)の無制限国債買い取りで大きく揺れたマーケットも、日銀の動きにはほぼ無反応。
欧米市場は、ハリケーン・サンディ関連報道一色。おかげで(?)、「その喧騒で掻き消された」という口実も出来て、なんとか日銀のメンツは保たれたというべきか。結果的に「ひっそり追加緩和」となり、ジャパン・パッシング(日本素通り)現象が話題になることもなかった。
ロンドンの市場関係者の一言がきつい。
(日銀追加緩和に関して)"pathetic"という単語で表現。
この言葉のニュアンスを日本語に置き換えるのは難しいが、例えば、「高齢者が青信号で横断歩道を渡りきれない」、「支持率低迷の首相が人気取りの愚策を相次いで繰り出す」ような状況のときに使われる。
ちなみに日英辞典をひくと、「かわいそうなほど、うまくいかない」と訳されていた。

とにかく日本経済は「低血圧症」だ。そもそも望ましい血圧(物価上昇率)が1%。しかし、ドクター・シラカワの見立ては、2014年度も1%には届かず0.8%程度。
対して、ドクター・バーナンキのカルテでは、米国経済の望ましい血圧は2%。しかも、こちらの患者はメタボゆえ、過剰投薬でインフレという高血圧症になりやすい経済体質だ。
いずれにせよ、どちらも、適正血圧に戻るまで、「通貨供給」という投薬を続ける治療方針である。
しかし、「流動性の罠」にはまった日本経済の血圧を上昇させるための「昇圧剤」の効果は薄い。高血圧を下げる降圧剤は効くが、昇圧剤処方は副作用も伴い難しいものだ。結局、日本経済の「基礎体力」を鍛えねば根源的治療は望めない。そのための構造改革は、一朝一夕には成らぬ。
そこまで冷めた見方の市場では、ドル円も「日銀追加緩和」の"噂で円を売り、ニュースで買い戻す"というお決まりの動きとなった。
結局、東洋人の日本には、西洋医学の「量的緩和」より、漢方の穏やかな「体力増強」のほうが合っているのだろうか。
幸い、「金融ニッポン」の基礎体力ともいえる個人金融資産は、1500兆円規模で潤沢である。日銀供給マネーが民間のリスクマネーとなり、経済を活性化させる治療法では、個人投資家のリテラシー(金融知識)レベルが重要なカルテ項目となろう。

さて、筆者のプラチナ相場観は、30日づけ日経夕刊「先読みEYE」参照。
それから、今朝の読売新聞に純金積立関連インタビューあり。

2012年